住民監査請求は「合議不調」の決定

監査請求結果

7月8日、大阪市(市長または大阪港湾局長大阪港湾局長その他の大阪市の職員によって)が、IRカジノの事業用地に借地権設定契約を締結することを差止める監査請求は、協議によっても監査委員の合議が調わなかったとして「合議不調」の連絡が行政委員会事務局からあった。

令和4年度‐3
通知年月日 令和4年7月8日
請求内容
大阪港湾局長等が、SPCとの間で締結を予定している事業用定期借地権設定契約ないし土地所有者責任の合意は、平等原則(憲法第14条)、地方自治法第2条、地方財政法第4条第1項、地方公営企業法第3条等に違反する違法な財務会計行為であるので、本件契約等の締結の差止めその他の必要な措置を講ずるよう勧告することを求める。
監査結果
合議不調
掲載情報元
https://www.city.osaka.lg.jp/gyouseiiinkai/page/0000430507.html

この住民監査請求は、次の3点について請求を行ったもの。
[1] 地方 自治法242条1項の規定により、大阪市長又は大阪港湾局長その他の大阪市の職員による、事業用定期借地権設定契約の締結の差止めその他の必要な措置を講ずることを求める。
賃貸借の目的 夢洲地区(大阪市此花区夢洲中1丁目1番1他)の一部(約49万m)
賃貸人 大阪市
賃借人 大阪IR株式会社

[2] 地方自治法242条1項の規定により、大阪市長又は大阪港湾局長その他の大阪市の職員が本件借地権設定契約を締結するに当たり、大阪市が土地所有者の責任として大阪IR株式会社による事業のために必要な土壌汚染除去等の処理費用を負担する旨の合意の締結の差止めその他の必要な措置を講ずることを求める。
[3] 地方自治法242条4項の規定により、本件借地権設定契約ないし第2項の合意の締結の停止の勧告を求める。

[1]は、カジノ事業者である大阪IR株式会社と事業用地の賃貸契約の差し止めを求めるもの。
[2]は、大阪市が土地所有者の責任の名のもとに、カジノ事業者に代わって土壌汚染除去等の処理費用を負担する契約の差し止めを求めるもの。
いずれもこの2月に締結された大阪市とカジノ事業者との「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書」の内容から判明した契約内容の問題点を整理。4月に国に申請した区域整備計画が認定されたのちに結ぶとされているカジノ実施協定の締結に対して差し止めを求めるもの。



合議不調となったのは、4人の監査委員の意見が分かれ、調整できなかったためとあるが、どのような点で意見が分かれたのか。

監査委員は以下の4名。
森 伊吹 常勤・代表監査委員・会社役員経験者
森 恵一 非常勤・弁護士
杉村 幸太郎 非常勤・大阪市議会議員
森山 よしひさ 非常勤・大阪市議会議員
監査は、2022年5月26日から7月7日の日程で実施された。

監査請求で訴えているのは次の点。
[1]大阪港営事業では、土地の分譲・貸し付けについては、これまで土地の瑕疵については責任を負担していない。にもかかわらず、カジノ事業者には土壌汚染対策費を負担するのは、憲法14条の平等原則に反する点。
[2]大阪市が土地所有者責任として負担する金額がすでに約790億円となっている。カジノ事業者からの賃貸収入(880億円)で賄えるとしているが、事業者が撤退するリスクを織り込んでおらず、支出回収ができない場合がある。
[3]土地所有者責任として、カジノ事業者のために土壌汚染除去等の費用負担をすることは違法である点。
・協定では、無制限に土地課題対策費を負担せざるを得ない内容となっていること。
・土地課題対策の実施内容を大阪市が直接管理できず、カジノ事業者が提示する実施費用をそのまま大阪市が負担することになる恐れが強い。

監査請求では、こうした違法性が強く見込まれるため、カジノ事業者との土地契約締結の停止が必要であることを訴えている。


こうした内容を受けて監査委員の意見は次のようなものとなっている。

本件請求には理由があるので措置を勧告すべきとする見解

[1]「本件契約が現状有姿の取扱いにしておらず、平等原則(憲法第14条)に反するという点」について
 これまで臨海部の埋立地の売却貸し付けについて土壌汚染対策や液状化対策についてその費用を大阪市が負担した例はないことを確認。一方、カジノ事業者との協定では、土壌汚染対策については建設汚泥の処分等のために約360億円、またカジノ事業者が実施する液状化対策の費用約410億円を負担することとしている。
「この取扱いの差の理由を公募スキームの違いと大阪IRの政策的意義等の観点からと説明しているが、上記の取扱いの差異をもたらす合理的な理由とは認められない。」として、「本市が土壌汚染対策及び液状化対策費用を負担することは、合理的な理由のない差別的取扱いであり、平等原則に違反するものと認められる。」と結論づけられた。

[2]「本市がIR事業用地の瑕疵についてSPCに対して無制限に事業に必要な土地課題対策費を負担せざるを得ず、法第2条等に違反するという点」について
「埋立材の原因による通常の想定を著しく上回る大規模な地盤の沈下等に係る費用」と「IR施設の建設等に支障となる通常想定し得ない一定要件を満たす地中埋設物の除去工事等に係る費用の負担」は隠れた瑕疵で、現時点で存在を確認できていない。特に地盤沈下については、長期間にわたり発生するもので、無制限の費用負担が発生しかねないと指摘。また、契約では、「通常の想定を著しく上回る」という条件が付されているが、IR事業用地は、地盤沈下の「通常の想定」が可能であるとは考えられない、とも意見し、本件契約等においての地盤の沈下等に係る費用負担に係る合意を行うことは、市長の裁量権を逸脱濫用したものであると認められるとしている。
「したがって、本件契約等は違法なものであり、請求人の主張には理由があると認められるので、本件契約等の締結について、差止の措置を取るよう勧告すべきである。」と結論づけている。


本件請求には理由がないので棄却すべきとする見解

[1]「本件契約が現状有姿の取扱いにしておらず、平等原則(憲法第 14 条)に反するという点」について
「土地の規模や事業形態等という客観的事情に即して、撤去費相当の負担の形を合理的に修正したものであって、取扱いを別異にすることに合理的な理由があると認められる。」とし、「本件契約等において本市が土地課題対策費を負担することには、合理的な理由があり、平等原則に違反することはない。」としている。

[2]「約790億円という巨額の支出負担を伴うことが予想されている点」については、支出額が巨額であることが、法令に違反するといったものではなく違法、不当な点はないとした。

[3]「法第2条等に違反するとする点」については、「土地の瑕疵に係る本市の負担については、上限が設定され、また本市が負担することに合理性が認められる範囲のものに限定されており、無制限に負担が増加するといった事情は認められず、この点に係る合意について、市長の裁量権の逸脱濫用は認められない。」という。

また、「土地課題対策の実施内容を本市が直接に管理できず、SPCの支出する実施費用がそのまま土地課題対策費として本市の負担となるおそれが強い極めて不利な条件か」については、「市が土地課題対策工事の内容等を直接管理できないとしても、その費用を負担する旨合意することについて、市長が裁量権を逸脱濫用したものとは認められない。」として法第2条等に違反する実は認められないと突っぱねた上で、請求人の主張には理由がないとしている。


今回の結果には付言がついており、「棄却すべきと判断した委員の一部から、次の認識が示された。」としている。

「一貫施工に一定の合理性があることを否定するものではないものの、事前の比較検討に欠けるところがあったのではないかと思われる。」と指摘。「支出執行の適正確保に係る過大な負担の軽減を図るため、早期に、SPCとの間で、土地課題対策工事に係る費用の一層の透明化を図る仕組みを構築、導入できないか協議することも検討されたい。」としている。
「現時点で違法、不当な点があるとの判断には至らなかったが」という前提での付言なので、さほど効果のあるものとは思えないが、問題点の指摘として明言されたととらえている。

他方、今回の結果には、末尾に今回の請求に対する大阪市からの反論が17ページにわたって記載されている。
別稿で、この反論についても紹介する。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?