「大阪IRカジノ」住民監査請求から住民訴訟へ

【山田 明 名古屋市立大学名誉教授】

 『おおさかの住民と自治』10月号に表題レポートを寄稿したので、原稿を紹介する。
大阪IR区域整備計画案は大阪府議会で可決されたあと、大阪市議会で「同意」が取りつけられ、4月下旬に国に申請された。大阪府民のカジノ反対の声は高まるばかりで、住民投票を求める署名活動が始められる。
署名活動が府下全域で進められる中、私を含め5人の大阪市民が5月11日、IR事業用地借地権設定契約締結差し止めを求め、大阪市に住民監査請求した。6月23日には、請求人「陳述」が行われ、その後の会見には多くのマスコミが取材した(写真は当日夕方にNHKで放映された記者会見)。私も軟弱地盤の夢洲へのIRカジノ誘致は大阪市財政を破綻させるもので、地方行財政を研究してきた者として黙ってはおれない、などと陳述した。
大阪市監査委員は7月8日、次のような監査結果を請求人に通知した。「本請求について監査を実施したが、当該請求の理由の有無等について、協議によっても監査委員の合議が調わなかった」、つまり合議不調に終わったのである。本請求には理由があるので措置を勧告すべき、理由がないので棄却すべきとする見解が並んで記載されていた。監査委員の構成から予想はしていたが、熱を入れて請求・陳述したこともあり、拍子抜けの結論であった。
監査結果は86ページあり、請求人と大阪市(IR推進局と港湾局など)の見解などが詳しく記載されている。なかでも注目されるのが、監査請求書に対する大阪市の「反論」が17ページにわたって執拗に書かれていることだ。監査請求に対する行政側からの、こうした「反論」は異例だ。監査委員の一人がIR会社による一貫施工は問題であり、本来は大阪市が土地課題対策を実施すべきと「付言」していることも注目される。
合議不調という監査結果を受け、請求人と弁護団は7月29日に大阪地裁に提訴することにした。午前10時に提訴したが、この日の午後、府議会でIRカジノ誘致の是非を問う住民投票条例案の審議が行われた。条例案は反対多数で否決されたが、住民意見を無視した吉村知事や維新・公明に対する府民の怒りは、高まる一方だ。大阪IRカジノ計画を認可させない国への働きかけとともに、IR予定地への大阪市の公金投入差し止めを求める住民訴訟も注目されつつある。
私たちの住民訴訟のポイントを紹介したい。高層建築物など想定していない軟弱地盤の夢洲に、IRカジノ施設を計画し、大阪市が底なしの財政負担をすることの違法性を問う訴訟である。本訴訟の請求趣旨は主に次の2点。大阪市が大阪IR株式会社に夢洲の土地を貸す定期借地権設定契約を締結してはならない、大阪市は夢洲の土地改良事業のためにIR会社に一切の支払いをしてはならない。

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