居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜 P77
6.柴田 健一 1周年記念宿泊イベント①
「キャアァァァ!」
絹を裂くような悲鳴がプラットフォームに響いた。
乗客達が一斉に悲鳴を上げた方へと注目する。
「し…死ん…死んでる……」
男が一人、ホームのベンチで事切れ…倒れていた……。
悲鳴を上げた女性は震えながら
「私はベンチにつまづきかけただけなのよ! なのに倒れたから…様子がおかしいと思って……。だから…だから……」
駅長が足早にやってきて
「今から、このベンチ周辺を立ち入り禁止にします。この男性をご存知の方はいらっしゃいませんか?」
すると一人の女性が震えながら…
「あのっ!」
と、声をかけた。
「あの…私の連れ…です。姿が見えなかったので探していたのです」
と、名乗り出る。
駅長は
「お名前は?」
と、至って冷静に聞く。
「関口…真奈美…です。この人は『黒田 誠』さんです。私の…恋人です」
そう言いながら彼女の瞳にみるみる涙が溢れ出した。
そして…
「イヤぁっ!」
と叫んでそのまま失神してしまう…。
女性の駅員がわらわらとやってきて彼女に寄り添った。
「現場を保存します。乗客の皆様は自席へお戻り下さい。後ほど事情聴取に伺います。ご協力よろしくお願い致します」
手際よくポールがベンチの周りに立てられ黄色いテープが張られる。
「はい、下がってください! 下がって!」
駅員達が野次馬達を遠ざける。
そこへタイミング良く発車ベルが鳴った。
"ジリリリリ…"
「ハイ、イベント内特別パフォーマンス『緊急停止列車殺人事件』オープニングはこれにて終了です。」
わっと場内が湧き、誰からともなく拍手が始まる。
駅長・駅員他、演者さんが頭を下げた。
死体(役)の男性も起き上がって頭を下げる。
列車居酒屋宿泊イベントのパフォーマンス劇の幕はこうして上がった。
居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜 6.柴田 健一 1周年記念宿泊イベント② へ続く。
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