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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜         P82

6.柴田 健一 1周年記念宿泊イベント⑥

 私は演者の方々にインタビューするべくパイプ椅子を抱えて女性専用車両に足を踏み入れた。

「みゃあ先輩お疲れ様」
 車両中程のホーム側の席から華やいだ声が聞こえる。
 医師役の近藤美也が自席に戻ったところで被害者の恋人役の関口真奈美が労いの言葉をかけていたようだ。
「あー緊張したあ…。変じゃなかった?」
「大丈夫、大丈夫! ちゃんとできてましたよ。セリフも間違えてなかったし…」
 そう言いながら関口真奈美が烏龍茶を差し出した。
 近藤美也も受け取りながら席に腰を降ろす。

「お疲れ様でした。ちょっとインタビューさせて欲しいんだけど…」
 私は二人に声をかける。
「あ、お疲れ様です。駅長さん」
「お疲れ様でした~」
 二人は烏龍茶のグラスを掲げて労ってくれた。
 ちなみにこの居酒屋を知った経緯とか利用頻度とかは劇の練習の時にインタビュー済みである。
私は通路にパイプ椅子を広げて座り小型録音機を取り出した。
 そして、
「どうでした。演ってみて」
と、聞いてみる。
「緊張したあ〜。劇なんて小学生の時ぐらいしかやった事ないしぃ…」
「カンペ付きOKだったから少しは楽だったかな? 精神的に…」
「そうそう! 完璧に覚えなくて良いって思えたのがありがたかったねぇ…」
 そう言いながら小道具や手に書いてあるカンペを見せてくれた。
「これ写真に撮ってもいい?」
私はカメラを取り出す。
「えーっ! 嫌ですぅ。恥ずかしいじゃん」
「そうそう! 実はセリフは覚えてませんでしたってバレちゃう」
二人は慌ててカンペをしまった。

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