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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜        P80

6.柴田 健一 1周年記念宿泊イベント④

 "ジリリリリ…“
 発車ベルがプラットフォームに響き渡る。
「ただいまよりイベント内特別パフォーマンス『緊急停止列車殺人事件・事情聴取編・その1』を開演します」

 駅長が頭を抱え椅子に座っている。
 白衣を着た女性が紙が挟まったバインダーを片手に駅長に近づいた。
「柴田駅長、少しお時間よろしいですか」
 駅長は顔を上げて彼女を見やる。
「あぁ、近藤先生。わざわざすみません」
 彼女はバインダーの紙をにらみながら
「検死の結果をお伝えします。死因は【スズメバチに刺されたことによるアナフィラキシーショック】でした」
と、言った。
 駅長が
「スズメバチ?」
と、オウム返しにつぶやく。
「ええ、スズメバチです。秋の行楽シーズンですからね。何処かから紛れ込んで来たんでしょう」
「こんな台風の中を?」
 荒れ狂う雨と風の音が流れる。
 彼女はわざとらしく咳払いをし
「自然が近い場所ですからね。巣でも近くに有るんじゃないですか?」
 駅長は緩く首を左右に振って
「駅の中にスズメバチの巣が有ればすぐに気が付きます。人が多いですからね。ましてや今は秋です。巣作りの時期は春ですから有れば相当の大きさになっていて目立つはずです。それに一番凶暴で数も多くなっている時期です。少なくとも私は駅構内にスズメバチを見かけた事はありません。」
と、答えた。
 彼女は大げさに肩を竦め
「まぁ、可能性は皆無ではありませんがかなり不自然ですね。そして服の中にいたのは3匹だけでしたからさらに不自然過ぎます」
と、苦笑する。
「ますます不自然です。巣が近くに有るななら数が少な過ぎますし彼しか被害に有って無いのも不自然です」
駅長は再び頭を抱えた。

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