居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜 P41
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑥
「【シリウス駅名物、限定骨付きカルビ】は如何ですか?」
彼女がにこやかに指し示した場所には肉料理のお皿が並んでいた。
ジュウジュウと音を立てているのは【骨付きカルビ】。
どうやら焼き立てのようだ。
「数量限定です」
う〜ん…
食べてみたいけど、お父さんは食べられるかな……。
少し悩んで一皿だけ買うことにする。
父が食べられるようなら追加で買いに来よう。
「そろそろ列車の発車時刻になります。ご乗車下さい」
店員さんに促され私達は列車に乗り込んだ。
乗車券の番号を頼りに席を探す。
さほど時間もかからず席に到着した。
「では、良い旅を!」
笑顔が眩しい店員さんは通路と席の間にあるビニールカーテンを閉めた。
私は父を座らせると父の前の座席の背もたれに有るテーブルを出してトレイを置かせる。
そして自分も座席の前に設置してあるテーブルを準備しトレイを置いた。
席に座るとかなり狭かったのでリクライニングを調節する。
隣に座る父も無言で席のリクライニングを調節しているところだった。
そういうところは忘れていないらしい……。
苦笑しつつ後ろの座席の様子を確認する。
開店直後だった為か後ろの席に他のお客様はいなかった。
「ほら、お父さん見て! 海が見えるわ」
窓の外に目を向ければ雨にけぶる海が見えた。
正確にはライトアップされている海の絵が描かれた大きな看板だ。
それでも窓から眺めると雨にけぶる海沿いの景色そのものだった。
『まもなく列車はシリウス駅を出発致します。どなた様もお乗り遅れのございませんよう…。次の駅はフォーマルクラフトです』
臨場感たっぷりに発車ベルが響いた。
そしてホーム側のドアが閉まる。
列車の走行音まで流れてきた。
今にも列車が動きだしそう……。
動かない事がおかしな気分になる演出だ。
居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑦
へ続く。
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