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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜         P31

2.野崎 颯 居酒屋ランチタイム⑪

「あら、ホントね」
 窓の外には雄大な富士山の絵が描いてあった。
 ボクはよく見ようと窓の側に行く。
 ……。
 ちぇ……。
 窓が高くて富士山が見えない……。

 ボクは靴を脱いで近くの椅子に登る。
 よし! 見えた!
 やっぱり富士山はカッコいいよ……。
 なぁ!

「へぇ…こっちは山の景色なのね」
 お母さんがいつの間にか側にいた。
 もちろん優香も一緒だ。
 皆で一緒に外を眺めていると、富士山の絵の近くに立って写真を撮っている人がいた。

 え?
 電車やホームじゃない所に入って良いの?

「お母さん、写真撮ってる」
「ホントね。優香も撮りたい?」
 優香がパッとお母さんをみた。
 「撮りたい! 富士山だけじゃなくて海の絵のところでも撮りたい!」
「ボクも!」
 お母さんはボク達のテンションに目を丸くする。
 そして笑いながら…
「じゃあ手始めにここの電車の中で座席に座っているところを取りましょうか?」
と、言ってスマホを取り出す。

 ボクと優香は並んで座席に座らされ、お母さんが写真を撮ってくれた。
 撮れた写真を見て、ボクは何だか嬉しくなった。

 わーい!
 この写真【だけ】みたら本当に旅行してるみたいじゃん!

 実は他の町にすら行ってないのに!

 何となくウキウキしてきた。
「お母さん、次は? 次はどこで撮る?」
「そうねぇ…先頭車両とか?」
「賛成!」
 ボクと優香は出口のドアに向かって走りだした。
 でも…
「走らないの! 危ないよ!」
 お母さんが注意が飛ぶ。
 おぉっと……
 ボク達はあわてて走るのをやめて早歩きになった。

居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
2.野崎 颯 居酒屋ランチタイム⑫

 へ続く

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