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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜        P81

6.柴田 健一 1周年記念宿泊イベント⑤

 突然駅長は立ち上がると
「蜂が他にもまだいる可能性が!?」
と、叫ぶ。
「まぁ…有るでしょうね…」
 近藤医師が呑気に呟いた。
「すぐに注意喚起のアナウンスをしなければ!」
 駅長は制服のポケットから携帯電話を取り出し放送の指示を出す。

『お客様の中にスズメバチの被害に会われた方がいらっしゃいます。スズメバチを発見されたらどんな状態の蜂でも速やかに駅係員までお知らせ下さい』

 注意喚起の放送を聞き駅長は少しだけ安堵の表情を浮かべた。
 そして…
「でも何で蜂に刺されたんでしょうか。そもそも蜂が服の中に入り込むものなのですか?」
と、近藤医師に話しかける。
「さぁネェ…」
 近藤医師は少し視線を外らせて
「ホトケさんはかなり体臭のキツイ人だったみたいでしたからね。加えて整髪料やらなんやらがかなりキツかった。蜂はそういったニオイに敏感だから引き寄せられたのかもしれませんね」
と解説した。
「じゃあ服に蜂が入り込んだのは列車に乗る前でしょうか?」
 駅長の問いに近藤医師は肩をすくめる。
「山登りハイキングの帰りらしいから可能性としては有りますが…乗車してからかなり時間が経っていますから少し無理が有りますねぇ…。自然は豊かですが、この駅の近くに山まではありません」
「確かに…」

 携帯電話の着信音が鳴った。
 駅長は無造作にポケットから携帯電話を取り出す。

「はい…はい…。わかりました」
 駅長は短く答えて電話を切り、深いため息と供に立ち上がる。

「関口真奈美さんが気がつかれたようです」
そう、近藤医師に告げると彼女に背を向けた。
「念の為、彼女を診察しましょう。事情も聞きたいです」

"ジリリリリ……“
発車ベルが鳴り響く。
「『緊急停止列車殺人事件・事情聴取編・その1』
終了です。ご観覧ありがとうございました。」

プラットフォームに拍手が湧いた。
演者2人は深々と周囲に頭を下げる。

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6.柴田 健一 1周年記念宿泊イベント⑥ へ続く



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