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【苺色の結実】小説家の母_ふるたみゆき

「くさかんむりに母」と書いて『苺』

矢継ぎ早に紅色の句集が届いて、俳号が『苺(いちご)』。
ああこれは母のしわざだなと思っていたら案の定、海の向こうから電話が掛かってきました。
「なかなかでしょう?」
と、うららかな声。
わたしが句集を読んだ上で明るい感想を携えているに違いない、という口調。

申し訳ないけれど未だ読んでいない事、翻訳書の監修の仕事が少々立て込んでいる事、句集の表紙の色が濃いので題字が見えづらい事、など、など、できるだけ淡々と申し上げると、海の向こうでは少々おかんむりの様子。

電話を終えて「ヤレ、ヤレ」、その紅色の濃い句集を取ってひらくや、末尾の一句。

『春満ちて くさかんむりの行方かな』

なるほど。
母はわたしという娘をあらかた育て終えたので、これからは作品を生み育てることに熱中するのだなと、なぜかその句で悟りました。

後日、編集者に会うついでに句集をみせると、
「これはなかなか良いから、出版を検討しませんか」
思いもよらぬ明るい返事。さて、どうなることでしょう。

【プロフィール画像】ふるたみゆき_3

【筆者プロフィール】ふるた みゆき / 小説・脚本
京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務。ライフワークとして、幻の名曲をめぐる物語『旅するピアニストとフェルマータの大冒険』を制作中。並行して、同作のオーディオブック音楽劇の脚本を担当。
2022年は片山柊ピアノリサイタルほか、京都ノートルダム女学院 中学高等学校オーケストラクラブ、京都フィルハーモニー室内合奏団との共演にて、音楽劇の新作上演を予定している。2022年3月、監修・解説を手掛けた翻訳書、『創造力は眠っているだけだ』(原題『Le Déclic Créatif』ヤロン・ヘルマン著)を、プレジデント社より刊行。
公式HP:https://www.furutamiyuki.com/home

#旅ピア #苺 #句集


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