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起立性頭痛(脳脊髄液減少症)の娘の記録

これは、起立性調節障害や片頭痛(偏頭痛)と間違われやすいけれど、また別モノである「起立性頭痛」という病気に娘が罹り、軽快してゆくまでの記録です。
片頭痛が日に日に酷くなってゆく、起き上がれない、医者からは鬱だとか起立性調節障害と診断された……そんな方々の中にひそんでいる起立性頭痛。こういう病気もあることがもっと知られるといいなと思います。


0:はじめに

おそらく起立性、と聞くと、
「あぁ、あの朝起きれなくて学校いけずに不登校になったりする、アレね」
と思われる方は多いのだと思います。特に学校教師の方には馴染みの深い、起立性調節障害と呼ばれる症状が有名ですよね。

でも、娘が罹った病気は、起立性「頭痛」(脳脊髄液減少症からくる痛み)というものでした。
これは、ものすごく簡単にいえば
「とにかく起きている間は頭が痛くて何もできず、寝転ぶと若干マシになる」というものです。寝ていると痛みが軽減するので、サボっているとか仮病とかの誤解を受けることもあるらしいです。

起立性調節障害は夕方になると症状が和らいでくるといいますが、起立性頭痛は四六時中、頭部を起こしていれば頭痛が続きます。人によってその度合いは様々ですが、起立状態のときに酷くなるという症状は共通しています。

これは脳脊髄液が、脊髄の何処からかわからないけれど少しずつ漏れだしていて、脳を支えきれなくなって、起立状態のときに痛みが生じるせいだと言われています。脳そのものは痛みを感じないのですが、複雑なメカニズムを経て痛みが発生するのだということでした。

起立性頭痛は、片頭痛と混ざり合うタイプだと特に診断が難しく、ただの片頭痛と診断されがちです。
脳脊髄液減少症の一つの特徴的症状として、起立性頭痛があるのです。

うちの娘を診てくれたドクターは幸い、この近辺でも(というより日本でも有数の)脳脊髄液減少症という病について詳しいドクター達でした。そのため治療に繋げて頂くことができましたが、これは幸運だったと思います。

このドクターに辿り着くまで1年半、娘はただの片頭痛の診断を受けて、訳の分からないまま、どんどん酷くなってゆく頭痛に苦しめられてきました。

これはなかなか診断がつかないケースが多く、片頭痛として「精神的なものでしょう」「ストレスに弱いのかも」などと精神論込みで片付けられることがとても多いのです。

これは何故かというと、この「脳脊髄液減少症からくる起立性頭痛」を診断できるドクターが、まだそれほど居ないのだそうです。
病名そのものは、やっとこの10年で医師の間にも周知されてきましたが、それでも同じMRIやCT画像を見ても、脳脊髄液の漏出があるかないかという微妙なケースの時に、それを画像から読み取れるかどうかは、ドクターの経験や知識によって異なります。
うっすらとした漏出は、写真でも解りづらいケースが多いのだそうです。

あと、街中の頭痛外来クリニックでは、MRIを撮ってはくれますが、大体は通常「頭部のみ」です。

脳脊髄液減少症の診断では、脊髄まで込みで撮影し、判断します。また、通常のMRI撮影よりも長時間の撮影となります。うちの子で確か30分か40分ほどかかった記憶があります。通常のクリニックではほんの数分だったので、やはりまったく違う手間がかかるものです。「脳脊髄液減少症かもしれない」と疑わなければ通常撮影しない写真だということになります。

以下、娘の片頭痛と起立性頭痛の経過、入院治療の内容について、メモを残しておきます。
あまりにも酷い片頭痛で、お子さんが学校にも行けずに苦しんでいる方の中に、起立性頭痛の方がいらっしゃるかもしれません。
私の娘のクラスメートも頭痛が酷くて同じドクターを紹介したら、やはり起立性の可能性が疑われたりもしました。同じクラスに二人も起立性頭痛の患者がいたのだという事実は、衝撃でした。
強烈な片頭痛をお持ちのお子さんの一部に、この記録がお役に立てば幸いです。


1:最初は片頭痛が始まりでした

小学校4年の5~6月でした。天候不順が続く梅雨の頃。
急に、娘が頭が痛いと言い出しました。風邪かなにかかな?と思い休ませたりしましたが、ぐずぐずと頭が痛い日々が多くなっていき、片頭痛を疑って街中の頭痛外来クリニックを受診。
頭部MRIに器質的異常の所見なし。
「片頭痛だと思います」と診断されました。

6月末に、
M錠 服用開始
次の診療時に
D錠+I錠+カロナール 服用開始
10月より
予防薬M錠+P錠とR錠の組み合わせで服用開始
といった流れでした。
(2022/04/19追記…いろいろ考えて、薬品の名前は伏せることにしました。わたしは医療関係者ではないし、これはあくまで私の子供の記録であり、他の片頭痛の患者さんに共通かつ正解な処方レシピだと思われるような記載は適当ではないと思うので……カロナールだけは一般的な鎮痛解熱剤ですので伏せずとも問題ないと思うのでそのままにしておきます)

予防薬M錠は11月には2錠に増えました。

翌年1月、予防薬M錠とR錠、そしていつでも飲めるカロナールに落ち着き、P錠はなくなりました。
しかし、カロナールは娘にはまったく効果がなく、予防薬M錠の効果も大して感じられず、頓服R錠も飲んでもあまり痛みが取れません。

娘の片頭痛発作は、通常2,3時間で大体の人がおさまると言われる中、短くても2日、長ければ3日たっぷり続きました。起きることも困難なほどの痛みです。学校にいける日数は極端に減っていき、1週間のうち3日出席できれば良い方でした。

5年になり、4月。予防薬M錠は1錠に減らされ、頓服R錠を服用する日々が続きます。光明が見えない、この薬を飲み続けていいのかどうかもよくわからず不安なまま、薬を飲む日々。痛みは、あまり取れない。
しかし騙し騙し学校に通っていた5年生の9月、状況は極端に悪化しました。

2:片頭痛というにはあまりにも長時間の痛み

9月になり、娘の片頭痛発作は激しさを増しました。
台風シーズンだからかと思っていましたが、ひとたび片頭痛発作が起こると3日~4日寝込むのは当たり前の生活になり、起き上がれなくなってきました。

思えばこの頃から、少しずつ、脳脊髄液の漏出が顕著になっていたのかもしれません。MRIではほんの僅かしかみられない漏出具合であっても、子供の症状は結構激しいことも多いらしく、娘はおそらくこの頃から起立性頭痛の混合頭痛に悩まされていたのだと思います。

後から考えればわかる、のですが、当時はただただ、片頭痛が激しすぎるという印象でした。

予防薬M錠はまた2錠に増えました。頓服R錠を飲んでも飲んでも効かない。P錠がまた復活しました。薬は相変わらず効きません。
冬になりました。娘はもう、週に1日学校にいければ良い方でした。
寝たきりです。起きるととにかく激痛で、起きていられない。トイレにいくのもツライ状況です。
週に一日ほど、若干マシになる日がありますが、その程度でした。

2月初旬。いつものクリニックを訪れた私は、もう不安感でいっぱいでした。こんな日々がいつまで続くんだろうと。
娘はもう老人のごとく「寝たきり」です。筋力も低下するし、学校にもいけない。必死でテストの日に這いつくばるようにして学校の机に齧り付いてなんとかテストを受けようとしますが、それも全部は受けられず、まだやっていないテストがたまるばかりです。

5年の評定がこのままではつかない。

あまりに学校に行けずに不安だらけで、娘も精神的に不安定になっていきました。友達に忘れられてしまうと泣いては、週に一度だけ学校にいき、友達と触れあえてちょっとだけ安心して帰ってくる。でもまた休みが続くと泣いてしまう。学校にいきたい。友達に逢いたい。自分の人生はどうなるんだろう。寝たきりで算数のYouTube動画を見て、なんとか知識を仕入れる日々。

可哀想でみていられない。これでは心も病んでしまう。
こんなにも片頭痛とは長時間続くのだろうか。
こんなの難病と一緒じゃないか。おかしい。
何かが娘の中で起こっているのでは。

不安になって調べた私は、もしかして薬物中毒を起こしかけているのではとも思いました。まだ子供なのにずっと薬を飲ませ続けている不安が凄まじく、飲んでも飲んでも効かない薬への不信感も募るばかりでした。

それで、2月の初旬、いつものクリニックのドクターに聞いたのです。
「このまま同じ薬を飲み続けていていいんでしょうか。あまりにも量が多くて不安です。飲んでも飲んでも効かないなら、減らすとか、漢方に変えて頂くとかは出来ないんでしょうか……」と。

するとドクターが少しむっとしたように言い放ったのです。
「(予防薬M錠は)減らすこともできるけど、減らしたらどうなるか知らないよ。今ですら抑え切れてないのに」

ショックでした。突き放されたな、と感じましたし、「どうなるか知らないよ」などという脅し文句にも似た台詞を言う前に、ドクターならば薬の必要性を説明するとか、酷くなる一方の娘に何をできるのか改めて考えるのが筋なのではと思ったのです。毎回毎回3分も診察せずに同じ薬だけ処方して終わる。それでいいと? 救われない患者が目の前にいるのに。

症状は明らかに重くなっている。こんなに若いのに、もう老人のごとく寝たきりに変貌した患者を前にして、結局いま以上のことは出来ないよと言い放ったも同然だと感じました。

もう、この医師は信頼できない。
そう感じた私はクリニックを出て、別の医師を探そうと決意しました。

3:起立性頭痛の診断を受ける

それから、自宅から通院可能な頭痛外来で良さげなところを必死に探しました。
その時感じたのは、「片頭痛の治療をうたう医者の中にも、本当にいろんな医者がいる」ということでした。

どの医者がいいか嗅ぎ分ける方法があるわけでもないのですが、ホームページをじっくり見ていくと、その医者がエキセントリックなのか、一般的な医師なのか……個性のようなものは透けて見えてきます。

その中でも私は、かなり詳しく「薬」について深く説明している医師のクリニックを見つけました。
専門的な知識を、患者がちゃんとアクセスできるHPに出来る限り表示し、それらを印刷してパンフレットをちゃんと作成し、患者に情報を与えている。

「どうせ説明しても素人には解らないだろう?」という姿勢とは真逆の、「与えられる情報は全部与える」という姿勢に好感を持ち、頭痛外来として真摯にとりくんでおられるそのクリニックの医師を訪ねてみよう、と決めました。

また、そのクリニックでは漢方も合わせて処方していることも決め手の一つでした。片頭痛の治療において、通常の薬と漢方との合わせ技を使うのは、きちんとエビデンスの取れたひとつの方法なのです。

初診時、うちの子はその日のラストに回されました。5時半頃、診療室に入り、それからなんと1時間半、ドクターはじっくり話を聞いて、それから治療について本当に沢山話してくれました。

片頭痛の治療において必要なのは、まずは直近1~2週間の記録。
だから処方された薬を飲みつつ、「頭痛ダイアリー」を記録して、次の診察でドクターに提出し、その結果を元に、また診断を一歩前進させていかなければいけないのです。今までは頭痛ダイアリーなんてつけたこともなかったので驚きでしたが、確かに言われてみれば当然のことで、毎日の頭痛の発生状況を把握できなければ、正確な診断に結びつかないに決まっています。(むしろ、それをさせなかった前のクリニックは何だったのでしょう……)

次に、飲む薬がなんのために重要なのかを患者と家族が知ること、それがなにより重要でした。不安にかられて途中で薬を止めてはならないからです。
今まで処方されてきた予防薬が、実は本当に片頭痛においてはポピュラーかつ重要な薬であることも改めて説明を受けました。

子供への処方も医師によって判断は分かれるけれど、このクリニックの医師は膨大な処方記録を全部データ化して統計をとっていて、何%の子供にどの程度効いた、何%にはあまり効かなかった、安全性はどうか、といったデータをすでに豊富にお持ちでした。

医師として実に論理的に「投与する意味」を説明してくれましたし、投与してそのまま放置ではなく、あとから頭痛ダイアリーを介して自分の患者からデータを回収し、薬が効いたのか効かないのかを判断し続けていました。

予防薬M錠に関しては、体重と年齢に応じ適した量を、一定期間飲み続けることが必要であることも教えられました。
うちの子は体重と年齢から計算すると、あと少しだけ予防薬M錠を増やして投与しなければ、意味がないことも。

(今までが実は少なかったし、途中で減らされたり増やされたりしたことは意味不明な投薬の仕方でした。結局いままでの投薬は、必要量を満たしておらず、服用期間として正式にカウントできないものとなってしまっていたのです)

そして一定期間、必要量を飲み続けることで、その予防薬M錠はある程度、片頭痛の起きにくい身体にしてくれる力があること。だから決められた量を、決められた日々飲み続け、その期間が終了したらたとえ効果があろうとなかろうと、予防薬M錠の投薬はかならず終了するものであること。
さらに漢方薬との併用も有効であることの説明を受けました。
コレに関しては、医師によって投薬の仕方もおそらく様々なのだろうと思いますが、少なくともこの医師は、予防薬M錠の投与にきっちり期限を決めてくれるタイプの医師でした。(あくまでこのクリニックの医師の投与例ですので、これが偏頭痛における処方の正解というわけではありません)

次に頓服も、ご自分が作成したパンフレットをその場で印刷し、それを使いつつ、ひとつひとつ、飲む意味、作用機序(作用発現のメカニズム)を解説してくれたのです。

1時間半、説明をみっちり受け、最後にダイアリーの付け方を看護師さんに説明され、病院を出たらもう辺りはとっぷりと暮れていました。
暗い夜の中、けれど私と娘は希望の光をやっと見出したような気持ちでした。

予防薬を飲む正確な意味を知り、ダイアリーで治療の道筋を探るという手段を与えられ、いずれにせよ予防薬に終わりがあるのだという希望をもつことが出来たのは、確かな救いだったからです。

それからの1週間と少しのあいだダイアリーに記録し、頓服があっという間になくなったため、再び同クリニックを受診。
頓服薬があまり効いていないことをダイアリーから確認した医師は、「やっぱりちょっとおかしいな」と首を傾げました。

やはりここまで沢山の片頭痛患者を診てきたドクターからみても、うちの子の症状は特異なものだったのです。

「頓服は効いていないようだから今回から別のに変えるよ。でもちょっと片頭痛にしてはおかしいな。痛みが長期間すぎる」と細かく娘に聞き取りし、やがてドクターは言いました。

「片頭痛持ちなのは間違いないよ。でも、それだけじゃないかもしれんね。ちょっとおいで」と娘をベッドに呼び、クッションを積んで、腰を上に、頭部を下にしてゆっくり仰向けに寝かせ、かなり傾斜をつけた状態でしばし娘を静止させました。

「どうかな。気持ち悪い?それとも少し頭痛が楽になった?」
すると娘がしばらくしてから、痛みでずっと顰めていた顔を、ふとゆるめて言ったのです。

「なんか……楽です……」と。

クッションなどで傾斜をつくり、頭部を腰より下にして寝かせたとき、頭痛症状が少し楽になる。
これは、起立性頭痛の典型的な例だそうです。


そこからは、頭痛が発生したとき、それが起立性頭痛からくる痛みなのか、片頭痛のみなのかを、出来る限り区別してダイアリーに記載する日々が始まりました。

痛いと訴えがあれば、頭を下にさせテストする。
片頭痛が優先して起こっているときには、頭を下にしてもあまり楽にはなりません。そういうときには、片頭痛の頓服を飲ませるのが有効。
でも、頭を下にして明らかに楽になるようであれば、片頭痛の薬は効かない起立性頭痛である可能性が高い。

娘の場合、混合で起こっている時も多く、気圧の上下によって片頭痛も併発していました。区別は極めて難しいのですが、とにかく頭を下げるテストを行って、頓服を飲ませたら効く可能性があれば飲ませ、起立性の場合は、クリニックで一時的に点滴を打ちました。

この点滴は、生理食塩水の点滴で、それ以外は何もはいっていません。
ただの水なのですが、体内を巡る水分量を多くすること、そして点滴中にずっと寝ている状態を保つことにより、一時的に脳脊髄液の量も多くして、脳を浮かせるための圧力を復活させるのが目的とのことでした。

別に脊髄に直接注射して水を注入するわけではなく、腕からの点滴なのですが、不思議なことに体内を巡る水が増えることで、確かに起立性頭痛の痛みは一時、軽減するのです。(嘘みたいな話ですけど…身体って不思議だな…)
普段から水を多く摂ることの重要性も説明されました。あのころ、携帯にタイマーを仕込んで、一時間ごとに娘に水を飲ませていました。

軽い症状の方だと、その通院点滴を数回繰り返すだけで良くなる方もいるらしいのですが、うちの娘は残念ながら点滴を繰り返しても駄目でした。
一時はマシになっても、3時間もすれば痛みが戻ってしまうのです……。

4:寝たままで点滴を受け続ける入院治療へ

ついに3月、決断の日がやってきました。
やはり起立性頭痛をまずは治さないと駄目なのです。起立性頭痛と片頭痛は別モノだから、一つ一つ、対処していかねばならない。
うちの娘の場合、前年9月で悪化の兆しがありました。つまりもう6か月目です。起立性頭痛の発生からおそらく6か月経ってしまった。

ドクターから提案されたのは、
『ねたきりで2週間過ごし、その間点滴を打ち続ける入院加療生活』
でした。本当にトイレと食事と風呂以外の全ての時間を、絶対に身体を横にした状態で過ごす。生理食塩水の点滴は一日2パック投与。そして口からも水を出来る限り飲む。体内の水分量をとにかく確保し続けて、寝た姿勢のまま、脳脊髄液の圧を維持し続ける。

これを2週間保つのです。すると、不思議なことに2週間後に起き上がると、痛みがすっかりおさまっている患者が一定数いるのだそうです。そして、その状態は維持されることが多い、と。

もちろん、またいつ再発するかはわからない。外傷性の場合は、強いショックが身体に加わったことで脳脊髄液が漏出することがあります。この先なんのきっかけで再発するかはわかりません。しかしうまくいけば、脳脊髄液の圧はこの治療で保てるようになる、らしいのです。
最初に説明を受けたときは、

(いやでも……今の生活だって充分、食事とトイレと風呂以外はずーっとこの子、寝たきりなんだけどな……???)

という気持ちでした。正直、今の生活と入院で、違う点は点滴2パックしかないじゃないか。そんなに効果があるかどうかは解らないな……と。

でも、これで軽快しない場合は、ブラッドパッチなどのもっと難しい治療に移行します。そうなれば様々なリスクもあり、痛みも伴います。
この『ねたきり点滴生活』だけでもしも軽快するならラッキーだし、一番子供の身体にとって楽な治療です。
なんせ当時、一週間7日のうち、ほぼほぼ6日寝たきりでした。こんな酷い状態を改善できる可能性があるなら躊躇う理由はありません。

新たなドクターに辿り着いてから1か月少しでの決断でした。
クリニックのドクターが、入院治療してくれる大きな病院への紹介状を書き、入院への道筋をつけてくれました。

3月中旬、その大病院を受診。そこの医師は脳脊髄液減少症をいままで沢山治療してきたドクターでした。
脊髄こみで撮影したMRIをみて、「やはり、本当に若干だけど、漏出していると思う」と判断されました。

「写真ではほんとうに僅かでも、子供の身体には結構症状がキツく出る、ということはこの病気ではよくあることで、写真で読影ができないほどに僅かであったとしても、痛みがでることもある。この程度の微妙な漏出だと、この手の症例に慣れてるドクターじゃないと、そもそも判別できないから見過ごされてしまうことは多いんですよ」と。

「すでに発症から半年経っていると思われる以上、うまく点滴だけで軽快するかどうかは、わからない。でも、何にせよこれが治療の第一関門だから、これで軽快すれば儲けものだよ」

その3日後の慌ただしい入院でした。コ○ナ禍での2週間。面会制限もあり、あわてて娘に携帯を持たせ、なんとかLINEを出来るようにしての入院となりました。
孤独に耐え、娘は2週間、点滴の針を留置されたままで過ごしました。

退屈しのぎに携帯と漫画を山ほど持ち込みましたが、まさにこれは『見知らぬ、天井』状態です。毎日天井をみて過ごす日々。
娘がエヴァンゲリオンを知っていたら、絶対にそのネタで写真を撮って送ってきたことでしょう……。

5:軽快へ

退院後の生活は、想像以上に制約のあるものでした。
少なくとも3か月───つまり学校での1学期もの間───重いモノを持たせない。体育をさせない。走らない。ジャンプしない。
深窓の令嬢もかくやというほどの制約がつく生活ですが、しばらくは圧を安定させ、脳脊髄液の漏出を防ぐため、無理はさせてはならないそうです。

体力もがっくり落ちました。初日、退院した後の娘は、疲れ切ってすぐ寝てしまったほどです。
でも、明らかに起立性頭痛は軽快しました。

こんな治療で?と信じられない気持ちもありますが、事実です。
6年生になり、そこから約3週間ほどは、一切の頭痛がない状態が続いたのです。夢のようでした。

その後、残念なことにまた徐々に頭痛は出て来ました。週に2日ほどは寝込むことがありました。しかし、前のように頭を下げるテストを行っても、楽になることはなく、片頭痛であることが確認できました。
退院後は大病院を紹介してくれたクリニックに戻り、そこからは片頭痛の治療を行っています。

相変わらず頓服については、頭痛の発生したその時に飲まなければどんぴしゃな効果はなく、大体いつも寝ている間に頭痛は発生しているので、朝になって起きてから薬を飲ませてもあまり劇的な効果はないのですが……
それでも片頭痛で倒れてから、大体1日で治るようになりました。
年が明けてからは、起きていられる時間は大幅に増えてきました。

いま、春になり、娘は中学校に入学したところです。ここ数週間、安定して活動できており、時折頭が重いことはあっても、ソファーで寝込むほどに痛がる姿はもう久しくみていません。
(が、そこから半年後、やはりまた悪化し元に戻ってしまったため、ブラッドパッチに移行しています。詳しくは次の記事をご覧ください→https://note.com/yumemukamo1412/n/nd17f80dd3c50

先日、予防薬M錠は期間満了となり、減薬を経て投薬ストップしたところです。いまは、漢方1種のみを予防薬として飲み、頓服はまた別のお薬を飲む形で落ち着いています。

予防薬M錠は、結局二つのクリニックでまたがって出されたことになり、結果的には長期服用となってしまいました。
いま、娘にとってそれがプラスに働いたかどうかはわかりません。が、少なくとも予防薬M錠を卒業した現在、容態は安定しています。予防薬M錠のお陰かもしれないし、年齢があがり、症状の出方も変わってきたせいなのかもしれません。

なんにせよ、ここまで服用を納得して受け入れられたのも、今のドクターの1時間半にわたる説明があってのことでした。

医師には時間がない。けれど、それでもこうして時間を割いて薬の説明をするのは、投薬に確固たる意味があるからであり、勝手に患者側が自己判断で薬の服用を辞めると治療が成り立たないことを医師自身が一番よく知っているから。

だからこそ初診には時間を割いて患者にきちんと治療の意味を説明すると、決めておられるようでした。
よいドクターに巡り会えたと思います。
実際、割いてくださった時間の分、患者はドクターを信頼し、命や身体を託すことができるのだと思います。

片頭痛は、通常の頭痛とは異なるメカニズムでおきます。
そして、片頭痛に隠れて、別の頭痛がひそんでいる可能性もあるのです。

ドクターは言っていました。片頭痛は基本的には治る病気なのだと。けれど未だに頭痛治療の界隈では精神論やストレスを理由にする医者が多い。治らないと思っている患者も医師も、もの凄く多い。
でも、僕は患者をきちんと正しい治療に繋げてあげたいのだと。薬は、治すために飲むモノだ。結果を出すために計算し、確固たる目的のもとに飲ませるものだと。
難治性の片頭痛は実際、あります。娘の片頭痛は残念ながら難治性に属するものだと言えます。それでも、基本、治すために治療はあるのだと。
そして起立性頭痛などの解りづらい病気をその中から掬い上げて、高度な治療に繋げる橋渡しをするのも、町のクリニックである自分の役目なのだと。

片頭痛と診断されたのに、どんどんと症状が重くなっていく。
一週間のうち、起き上がれる日がどんどん少なくなっていく。
夜になっても症状が軽快しないで痛み続ける。痛みが数日続く。
頭を腰より下にさげるテストをすると、若干楽になる。

そんなお子さんをお持ちの方の中に、もしかしたら、起立性頭痛が隠れているかもしれないよ……ということを、お伝えしたくて書きました。

身体は一人一人違うので、症状の出方も千差万別です。
しかし、重い片頭痛で苦しんでいる方の中に、起立性頭痛は数こそ少なくとも、確実にひそんでいると感じました。
どうか一人でも多く、起立性頭痛の子供達が、正しい診察・加療に繋がることができますように。この病気が、もっと広く周知されるといいなと思います。