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あの時、その時


急行ではなく 各駅停車に乗ろう
そう決めさせたのは
帰りたくないという思いと 
遠回りしたいという思い
古めかしさが まだ残る車内は
遠回りを選んだわたしを 安心させた

時間の流れがゆっくりで ひとは少ない
車窓越しにみる景色を
独り占めしているかのような
そんな 錯覚に陥る
窓枠のしかくさと 電車のはやさのせいで
まるで映画のように 景色が流れつづける

その時がすき

ふんわりとしたグラデーションの空をみるのは
たいてい 駅のホームで
細長い長方形に切り取ったかのような 空
目のガラスを覆いつくす
きょう一日のことを思い返して
暮れていく空を眺める

その時がすき

お風呂に入っていると何故だか
感覚がこもる
信号を待っていると 雲に目がいく
物事の断片を思い出す
布団に入ると しずけさにやられそうになる
こうしていればよかったとか
こころとわたしの対話がはじまる

あの時が悩ましい

氷が溶ける音や本のページをめくる音
缶をあける音やペンが走る音
すきだから 耳をすます
音が文字で表せるのって不思議だ
そんなことを考えて すきな音を探す

その時がすき

息をふぅっと吐いただけなのに
たった一度 まばたきしただけなのに
気付けば夜って日も

終わってほしくないから
のびることのない24時間を 
どうにかこうにか のばそうとした日も

あの時ね
その時ね
とはなす日がくる

季節のいろを両手いっぱいに抱きしめて
分けっこした日 宝箱につめ込んだ日
スキップした日 ぜんぶ ぜんぶ

いつかの その時、あの時

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