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ヘイ・ジュードの魔力

今朝見たbsのドキュメントで心が動かされた。

「プラハの春」という言葉がいつまでも記憶に残っている人は多いのではないか。

それはソビエトからの侵略に抵抗し続けて、ついには真の独立を取り戻した民衆運動の感動的な史実を指す。

番組は、この運動の中心人物となったマルタ・グビシュバーというカリスマ女性歌手にスポットを当てている。

若くしてチェコ国内で、圧倒的な人気を誇る大衆の心の代弁者だった彼女が、富と名声を手に入れ、やはり成功者だった映画監督と幸せな結婚生活を送っていた。

ある時突然ソビエト軍戦車と兵士によってプラハが侵攻されることになる。

すべての活動が監視され自由をすっかり奪われだす中で、マルタは当時世界の音楽界の頂点にいたビートルズの大ヒット曲『ヘイ・ジュード』に出会う。

彼女は、占領下で絶望的な民衆の心に、自由を取り戻す勇気を持ち続けることを静かに訴える歌詞をつけた。
決してあからさまな激しく扇動する言葉は使わず、しかし、しっかりとメッセージが伝わる曲となったヘイジュードは大ヒットする。

チェコ語で歌詞をつけたマルタのレコードは当局の目に留まり、迫害を受け始める。
しかし、何十回と拘束を繰り返す中、決して屈することなく、地下に潜航しながらの開放運動のリーダーとして活動を続ける。

数年後ベルリンの壁崩壊をきっかけに、チェコにおいても勇気づけられた民衆がついに占領政権を倒し民主国家を取り戻すこととなる。

この間、民衆はヘイジュードのレコードがすべて回収され割られることとなっても、他国からのラジオ放送や闇ルートで手に入れ、この曲を聴き続けていた。

これがこのドキュメントのあらすじなのだが、私が最も強く心にのこったのは、あのビートルズが作った曲が、一国の歴史を大きく変えてしまうパワーをも秘めていたという事実なのです。
ここに、音楽の持つ計り知れない「ちから」「能力」を感じざるを得ない。

ちなみに、ビートルズの原曲は、ジョンが当時別れることとなる妻のシンシアとの間にもうけたジュリアンの心の痛みを思ってポールが元気づけようと作ったものである。

そこには、ジュリアンを直接的な歌詞で慰めるのでなく、失恋ソングに装いを変えたスタイルがとられていた。
マルタは、そのダブルミーニングの手法を自身も駆使して、民衆を勇気づけるバースを産みだしたのです。

ポールは直接的なテーマとしての違いはあっても、たくみに言葉を操ることでより心に訴えかけるヒントをあたえた。さらに静かながらも圧倒的に力強いメロディーを紡ぎ、マルタに大きな感動を与えた。

まさに、この一枚のシングル盤が、文字通り世界史を塗り変えてしまったのです。

「音楽は世界を変える」というフレーズは何気なく耳にすることも多い。
しかし今回のドキュメントはそのことをあらためて思わされるエピソードとして、強く私の心にも刻まれた。

















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