エーっと来てセイッ



水呑み百姓、ときいて、のどが渇いた。

べつに水をごくごく飲んでいる百姓のことじゃない、とはわかったが、のどの渇きは生理のことで、私のせいではない。

たぶんのことだが、水ぐらいしか腹に入れるものがない哀れな農民のことだろう。

しかし水とはまた、現代以外では大層なものではないか?それこそ百姓など、水の権利で殺しあいなど日常のうち。それをたらふく飲むなんて、もしかしたら私が思う以上の御大層な身分の百姓殿であらせられるのかも。

私は立ち上がると、どろどろどろ、と騒音をひびかせて階下へ降り、台所へすべりこんで、コップに水を注ぐ。

一口。ああ。

ごくごく、と水を飲みほすと、体中に水がいきわたって、指先まで水滴がしたたるほど潤う。素晴らしい!

ねっとりとした空気の台所で、常夜灯がスポットライトのように私を讃え、夜という夜がひれ伏している錯覚を、なすがままに。

はぁー、と息。ぶーん、と冷蔵庫。ガラガラガラ、と冷蔵庫。私はビビった。でも冷蔵庫にキレたりしない。なんてったって。

なんと、明日は休みだ。

翌日にウキウキとするほど子供でもない。休みなどこれからの人生でいくらでもある(計算すると凹みそうだからしない)

でも人間は明日が休みなだけでほんの僅か、寛大になれるのだ。もしも世界がずっと休みなら、世界から戦争はなくなるだろう。そしていろいろな生活もなくなるだろう。賃金も。いろいろも。いろいろは…わからない。いろいろだ。

だからまあ仕事は今のところ、ゆるしてやる。だが、いつ仕事に我慢できなくなるか、ちゃんと怯えながら生きてほしい。仕事側も緊張感を持ってほしい。

そして私をできるかぎり甘やかして…いつかふっと居なくなる。私は仕事をさがして世界をさまようが、どこにも仕事はない。いつのまにか世界から仕事は消え去り、世界は平和になる。

仕事は…自分を犠牲にして世界を救ったんだ。私は気づき、一筋の涙を流す。仕事、ありがとう。おやすみなさい。そして…二度と帰ってくんな!ウオオオ!休み!休みだァーーーッ!!ヒャッハーッ!!

ホヒッヒ!休みと言う無限の可能性に束縛された不自由の中に、人間は果たして本当の自由を見つけ出すことが出来るのか?本当の自由とは人間の存在を定義する自我すらも超越した無意味の行いのことであり人間が見つけ出す概念の自由とは定義された不自由に過ぎないことは明白である。よって人間の享受する自由こそが、根源で人間を定義する不自由に最も近い形を持っており、むしろ不自由なる束縛は、自由という束縛から人間を連れ去ってくれる手段なのではないか?そうなれば、人間の行う活動の全ては、自由という不自由からの脱出を目的とする、土台不可能な問答に対する無謀の挑戦ではないのか?そうであれば、人間とは自由を享受することではなく不自由を選択することによって自己を定義し、それを目的とする無理問答の駆動体であり、人間こそが矛盾の体現である。ならば人間が自我を超越した自由を獲得したいという欲求すらも、また自我という不自由に束縛された結果に過ぎない、ならば。人は!自由にはなれないのだ!

どうでもいい!休みならそれでいい!

私は冷蔵庫を開けると、中からプリンを取りだした。クリーム状のやつだ。そしてブランデーをコップに注ぐ。ああ、退廃。

プリンをすくって、口へ運ぶ。クリームの濃厚な、からみつく甘み。そこへブランデーの痛みと香りが口内ではじけて、バニラとくすんだ香りが鼻から抜けていく。

ブランデーのひと、ごめんなさい。おいしいです。

プリンはすぐになくなった。食べると、なくなる。世界の嫌なところだ。こういうところがあるから世界は駄目なんだ。他のところでやっていけないよ?

でも、そんな世界のこときらいじゃないけどな。えっ、私くん、もしかして…?ばかっ、ちげーよ!勘違いすんなよ!トゥンク… ☆交差する想いーー

はい、というわけで、おつまみを作っていきたいとおもいます。よろしくおねがいします。はい、よろしくおねがいします。

まずは冷蔵庫からウインナーを出します。シャウのエッセンがいいです。でも高いです。なのでウインナーならなんでもいいです。

ウインのナーを焼いていきます。焼きます。終わります。

食べます。ビールがいいですね。ビールを開けます。飲みます。すごいと思いました。でもぼくにはとてもできない。

はい、というわけで、多少の飲酒によって人生が好転しはじめました。気分がいいのは良いことであるので、これは人生の好転です。引き寄せの法則です。こう、飲酒で…幸福を…ひきよせて…金持ちの父さんになって…水がしゃべる。

そういう世界のこと、キライじゃないけどなっ!えっ、私くん!?へへっ!そんな…勘違いしちゃうよ…。してもいーぜ、勘違い。トゥンク… ☆恋の鞘当ては御法度ーー

はい。早起きは三文の得、なんて申しますが、早起きのためには早寝しなくちゃならない。でもそれじゃあ江戸っ子の名がすたるってもんだ。江戸っ子なら夜も遊んで早起きして三文ひろう。それで粋ってもんですよ違いますかねぇ、ってんでこんな馬鹿な話をしちゃいけない。早寝早起きが長生きの秘訣ってんが平賀源内、馬鹿な男を説得する。ははあ、早寝早起きすりゃ、長生きできんのか、と男が納得するわけだが、男は何もわかっちゃいない。遅く寝て遅くに起きるのが、きっと一番いけないと思い込んで、遅くに寝た日に早く起きる始末でさぁ、これじゃあ体がもちやしない。毎日一刻しか寝ないってんだから、そりゃあ気の狂うのも仕方がない。じゃあ気の狂う男を誰がどうしたってんなら、平賀源内が引き取って実験体にしちまった。そうして出来たのがこの、はちみつ黒酢です。元気、ピンピン!皆さんの健康を台所から、はつや食品の提供でお送りします!

というわけで、私は布団に潜り込む。明日は休み、早寝早起き。三文の得で現代に換算すると十円ぐらいとか。じゃあ起きてたほうが得じゃね!?ウッホイ!ゲームを起動しよう!

でも、そんなにやりたいゲームも無いな…いや、こういう気持ちが老化だ。ゲームをして、クソだとか言いながらなんだかんだと楽しむ。それが人生だ。そうか?そうだよ。

そんな事を言いながらプレイ動画ばっかり見やがって。youtubeがパンパンじゃねぇか…視聴履歴は正直だな、ぶへへ。でも…でも、プレイ動画だって生きています!そんな事いうのは止めてください!へぇ、お前、面白い女だな…遊んでやるよ。そんなの、お断りです!クス…いいね ☆気に食わない男ーーー

そう、動画を見ながら休日が終わることを避けたい私。時間を全部吸い尽くすつもりのyoutube。助けるふりをして時間を吸い尽くすTwitter。なんかむかつくテスラモーターズ。みんな宇宙船地球号の、大事な仲間…。うるせぇ!海も死ね!

休日は充実させたい。休日を充実させて、仕事で英気を養う。無理。休日で英気を養う場合、イベントはこなせない。これは…どういうことですか博士!ウム…休日は、寝て過ごすべきじゃ。そんな…そんなことって…!

寝る。寝るに限る。睡眠が全て。スイミング。

でも、本当は漫画の一気読みとか、なろうのスコップとか、したいこと一杯あるんだよ…。でもね、そう、人間は少しずつ変わっていく。昔のままでは居られない。それは悪いことではない。けど、良いことでもない。収支はトントン。

トントン。ワシントン。昔、こういうギャグを見たことがあります。でも、このギャグで笑ったことは一度も、一度もなかったんです…。本当に…。


【終】




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