地獄角力乱和


その日、事件は起こった。邪悪なる闇行司となった式守伊之助の手によって、大関大三玉の清めの塩がゾンビパウダーにすり替えられたのだ。

満員御礼結びの一番、大三玉がゾンビパウダーを土俵に撒くと同時に皆既日食が始まった。その瞬間、土俵に染み込んだ力士の怨念が解放され大三玉を包み込み、苛んだ!

苦悶の声と観客たちのざわめきに何事かと振り向いた横綱聖条路は無念と怒りの赤いスモウ・スピリットに包み込まれ苦悶する大三玉に、すわ何事かと行司を見た。

しかし、邪悪なる式守伊之助は笑っていた。そして『呼び出し』た。

「東ぃ~、横ぉ~綱ぁ~、聖ぃ~条路ぃ~~聖条路ぃ~。」

「西ぃ~、大三玉に変わりぃ~デモニック・雷電・須佐男ぉ~ぅ~、デモニック・雷電・須佐男ぉ~~~ぅ~~!」

聖条路は見た!デモニック・雷電・須佐男となった大三玉を!

その体は全て異様の骨となり、その骨に紫電がまとわりついて見事なあんこ体型を象っている。聖条路の横綱としての勘は、この魔物が相撲取りとして尋常の力士ではないと感じ取った。

「此れにて、大相撲、打ち止めぇ~~~っ!」

式守伊之助が唾を飛ばしながら声を張り上げ、相撲の歴史の終焉を宣言した。

聖条路は仕切りに手を置いた。ここで大相撲、待ったなしと悟ったのだ。

例え目の前にいるのが邪悪なるイービルスピリットであろうと、本物の雷電為右衛門であろうと、はたまた野見宿禰であろうと、イスラエルであろうと、聖条路は横綱なのだ!

満員御礼、結びの一番。

「はは、は、はっけよい!」

聖条路の目には式守伊之助の狂態も、逃げ出そうとする観客も、恐怖に固まった親方も見えていない。デモニック・雷電・須佐男の眼窩を睨みつけていた。

「のこっーーー」

【第一章へ続く】




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