平成、毛、無人島


「無人島、無人島はいらんかね~ぇ~~~ぇぇ~」

深夜二時、俺の家の前に来たのは無人島売りだ。

「えっぇぇ~~え~ぇぇ~~ぇ~~~~」

家の前で延々と妙の節回しで歌い続ける。コレが常套手段。

「無人島ぉ~~~うぇぇ~~~ぇぇっ~~~」

ここで煩いとか黙れとか言うと、負けだ。煩わしいなら無人島を買えと言ってくる。無人島なんざモチロンいらん。

「おっおおっおうぇ~~~~~~おうぇ~~~~ぇぇぇ~~~」

俺はイラ立ちはじめた。しかし無人島の値段とか固定資産税とかを必死に考え我慢する。もう少しで諦めるはずだ。

「…………」

よし!

「……いよっ、あっ、無人島ぅ~~~~~~」

*

俺はいま、無人島にいる。別に最初から欲しかったし、一個ぐらい自分の無人島を持っててもおかしくないと思う。

でも無人島は無人島。何もない。

この島は、直径一キロメートルほどで砂浜と岩と森でできたオーソドックスな無人島だ。砂の上に寝転ぶと、すなすなしてて、ぎゅっと音がなる。これがこの島の売りらしい。以上。

スマホを見る。着信はゼロ。仕事を辞めたので無人島で羽根を伸ばそうと来てみたが、伸びる羽が無い。

俺は荷物からバレーボールを取り出した。

「よし、ジョン。今日から二人で無人島生活だ。」

「ヨシキタ!まずは寝床だぞ!(裏声)」

「やれやれ、ジョンは気が早いな。」

俺は孤独との戦いのため、バレーボールを持参したのだ。他の荷物はない。これで一ヶ月過ごす。

何故か?

俺は自分のことを信頼していない。どうせ自家発電機を持ち込んでスマホをピコピコ触りだし、カップ麺を一ヶ月食べ続けて「いやぁ、リフレッシュしました」とかナメた事を言うのだ。

そんな自分を許さない。

「働けぇ!(裏声)」

そう、強制的にアウトドア生活をして自然を嫌というほど満喫する。そうしてやっと俺はリフレッシュできるのだ。

俺の無人島生活は始まったばかりだ!

*

餓死します。遺書は砂浜に書きました。

無人島生活一日目も、もう夜だ。かれこれ何の食料も得られず、寝床すらも用意できなかった俺は砂浜に寝転がって美しすぎる星空を眺めていた。

「ミジメだな!(裏声)」

バレーボールのジョンにイラっときて海に投げ捨てる。さらばジョン。

俺は砂浜をかきむしった。腹が減った!寂しい!暇!だが砂浜をかきむしった所で何があるわけでもない。いや、何か、糸、いやこれは

「髪の毛…?」

砂浜から、長い長い、女の髪の毛が出てきた。何本も。

「気をつけろ!気をつけろ!気をつけろ!(裏声)」

ジョンが警句を連呼する。ざざざ、と冷たい、夏にあるまじき風が砂浜を吹き抜ける。この無人島が、安かった理由は?

俺は立ち上がる。気づいたのだ。

この夏最大のアクティビティの予感に…!

【未完】

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