見出し画像

【ライブレポ】早見沙織さんの歌声がまた聴ける(Hayami Saori Special Live 2023 Before Dawn-夜明けに君と)

あの歌声を耳にして、止まっていた時計がようやく動き出したような気がした。

早見沙織さんが前回有観客ライブを開催したのはもう3年以上前になる。
2019年10月に開催された“CHARACTERS”はそのタイトル通り、それまで早見沙織さんが担当してきたキャラソンをセルフカバーするという、いわゆる企画もののライブであった。
アーティスト・早見沙織としてのライブはさらに遡って2019年4月の“JUNCTION”が最後である。

その後配信ライブ等でその歌唱力を耳にする機会は度々あったが、やはり生で聴く早見さんの歌声は別格だった。
圧倒的ながらも、突き放すことなく包み込んでくれるような、唯一無二の温かさ。
言葉1つ1つが生きているような静かな躍動感。
「Tear of Will」の歌声とともに白いドレスをまとった早見さんが登場すると、ただ呆然と聴き入った。
拍手すらも忘れていたが、何となくそれが当然のことに思えた。

*******

アーティスト活動5周年であった2020年。
コロナの影響によりライブツアー“Your Cities”は中止となった。

それでも早見さんは精力的に新曲を発表した。
2020年にリリースした2枚のミニアルバム「シスターシティーズ」「GARDEN」は、早見さんが作詞や作曲を担当した楽曲を中心に収録。
どちらもコロナ禍で孤独を感じている人にも手を差し伸べてくれるような名盤だ。
その後大型タイアップ曲を含めて続々と配信リリースした楽曲は難曲揃いで、早見さんの表現力の幅広さに感嘆するしかなかった。

*******

この日2曲目に披露された「透明シンガー」はミニアルバムとタイアップ曲の間にリリースされた曲で、息苦しさと、それでも前を向いて進んでいこうとする力強さの両側面を内包したような楽曲だ。
3曲目は「メトロナイト」。ライブでの定番曲。
そしてその後は、2020年のミニアルバムに収録された楽曲を中心に続く。

コロナ前、コロナ後。
過去と今。
曲が切り替わるたびに、初めてその曲を聴いたときの気持ちを思い出す。
あぁ、このときは何かができるような気もしていたな。
あぁ、このときは何かにすがりたい気持ちだったな。
思い出が振り子のように振れる中で、自分自身の深層に近づいていくような感覚がした。

夜はまだ明けない。

*******

ライブ後半は、カラフルなスカートにネイビーのブラウスで登場する。

夜明け色の衣装とともに、「garden」「Akasaka5」といった明るい曲調が始まる。
深海に潜っていた私に手を差し伸べてくれるような、温かな歌声。
心に光が差し込んできて、救われたような気持ちになる。

「孤独を感じている人の救いになるような歌」。
コロナ禍になって以降、早見さんはアーティスト活動について「孤独」や「救い」という言葉をよく口にするようになったように思う。
家で楽曲を聴いていたときには「私はそこまで孤独を感じていないからな」などと見栄を張っていたけれど、どれほど早見さんの歌に救われていたかを改めて実感する。

ジャズ調が人気の「ESCORT」は、「yoso」からの流れで歌唱された。
2曲のテンポを合わせるために、「ESCORT」は今までよりも速いテンポで演奏したという。

ライブ本編を締めくくるのは「Awake」。
「消さないで光を」――悲痛な祈りのような壮大な楽曲だが、明るい曲調が続いた後に歌われると不思議とこの曲の持つ前向きさを感じた。

鳴りやまない拍手。
永く深い夜が終わる。

*******

アルバム発売とツアー開催が発表され、アンコールではそのニューアルバムに収録される新曲「エメラルド」も披露された。
早見さんの原点の1つともいえるジャズを基調とした楽曲ながら、作詞曲を担当したのは若干19歳の諭吉佳作/menさん。
豪華クリエイター陣とコラボした「シスターシティーズ」やボカロP・ぷすさんの楽曲提供による「透明シンガー」のような、コロナ以降の楽曲性の系譜も同時に感じる。

*******

3年ぶりに開催された有観客ライブ。
歌声を聴きながら、この3年間のたくさんのことを思い出した。

私個人の生活の変化や、取るに足らない気持ちの変化。
私はそれらを知らず知らずのうちに早見さんの曲に重ね合わせていたようだ。
辛いことや苦しいこともたくさんあった3年間。
すべての人の、すべてをひっくるめて肯定してくれるような、優しい夜明けだった。

夜明けとともに、また新しい1年が始まる。
また新しい歌声が聴ける。
私は早見さんの音楽と生きていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?