髭男『Pretender』の歌詞に何回「ない」が登場するのか数えてみた

※2019年12月14日のブログ記事より。

髭男ことOfficial髭男dismの『Pretender』。
まだ1回も聴いたことがない、という人はむしろ珍しいだろう。YouTube の動画の再生回数は1億回を突破し、2019年を代表するヒットソングとして街のいたるところで流れている。ヒゲダン初の紅白歌合戦出場に繋がった1曲だ。。

さて、そんな『Pretender』だが、少し気になっていることがある。
今一度注意をしながら、歌詞を眺めてほしい。

君の運命の人は僕じゃない
辛いけど否めない でも離れ難いのさ

そう。
サビのたった2行だけでも、否定形が2回も登場しているのだ。

松本隆さん「否定形は極力使わないように」

日本を代表する作詞家・松本隆さんは、以前次のようなツイートをしたことがある。

どうしても必要なとき以外、否定形は極力使わないようにしているというのである。
なお松本隆さんは、昨年「世界一受けたい授業」2時間スペシャルに出演した際にも、ネガティブワードは避けている旨を話していた。

例えば、松本隆さんの代表作の1つであるKinKi Kids 『硝子の少年』。
終わった恋について歌った曲だが、「ない」という否定形は曲中一度も登場しない。「ぼくの心はひび割れたビー玉さ」「君だけを愛していた」などの巧みな表現で言い替えて、「ない」を使わずに終わった恋であることを匂わせている。

髭男『Pretender』の「ない」を数えてみた

否定形は非常に強い言葉であるため、松本隆さん然り、他の作詞家やアーティスト然り、歌詞で使うときには神経を使うのだろう。
特に昭和の懐メロでは、「ない」を多用しているケースはあまり多くない。山口百恵『プレイバック Part2』ですら、「馬鹿にしないでよ」という有名なフレーズ以外で「ない」という言葉は登場しない。

だから、『Pretender』を聴いたときには、ちょっと驚いた。
タブーとすら考えられる否定形を、何回も何回も繰り返しているのだ。

ということで、『Pretender』 の歌詞の中で「ない」という言葉が何回登場するのか、実際に数えてみた。

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※「難い」という言葉も一種のネガティブワードだが、今回は「ない」のみをカウントしている。

合計で……

15回!

メロでの否定形の数が少なかったため、想像よりは伸び悩んだが、それでもなかなかの回数だ。

槇原敬之『もう恋なんてしない』 も数えてみた

なお比較対象として、“否定形の歌詞代表”ともいえる槇原敬之『もう恋なんてしない』の歌詞に登場する「ない」も数えてみた。

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※改めて歌詞を見てみると、「さよなら」というワードなどどこか『Pretender』 と似ている。
合計で……12回!
なんと否定形の数において、ヒゲダン『Pretender』 が槇原敬之『もう恋なんてしない』を上回った

あいみょんやback numberや米津玄師も

ちなみに今をときめくあいみょんも、『君はロックを聴かない』『君がいない夜を越えられやしない』『わかってない』などと、そもそも曲名の時点で否定形を多用している。特に『わかってない』は、サビでの連呼もあって20回以上否定形が登場する。
また髭男やあいみょんと比べると活動歴は長いが、back numberの歌詞にも否定形が多い。『高嶺の花子さん』では8回、しかも連呼ではなく「僕のものに なるわけないか」「黒魔術は知らないし」「駄目だ何ひとつ 勝ってない」などと様々な「ない」が登場している。
米津玄師も否定形が多く、『馬と鹿』はヒゲダン『Pretender』と同じく15回登場。肯定形のサビから始まる『Lemon』ですら、12回登場した。

なお髭男、あいみょん、back number、米津玄師の共通点といえば、配信サービスでの再生回数が多いこと。配信サービスだと歌詞が聴き流されやすいため、あえて「ない」という強い言葉を使用したほうが印象的な歌詞に仕上がるのかもしれない。
あるいは、10~20代のネット世代から人気というのも共通点だ。ネット世代は、これまでのテレビ世代とは違って、有名人にも“親近感”を求める。否定形を多用して曖昧な感情を歌うことで、かけ離れた存在ではなく、等身大で身近な存在であることを表現できるのかもしれない。
いずれにせよ否定形を多用する歌詞は、最近のJ-POPならではの傾向だと思う。

ちなみに、今回の記事で否定形が登場した回数は全部で7回。
私も今っぽさの片鱗を表現できただろうか?

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