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熊とお月様

ロッキーは弱虫な熊です。
どうしたら仲間の熊たちのように強くなれるのかと月に相談をしていた時、月が何者かにさらわれてしまいます。闇につつまれてしまった森の中でロッキーは月を助けようとするのですが・・

 
 
 
 
 
 
 
 
熊のロッキーは、湖のほとりで月を眺めるのが大好きでした。
満月の今夜は、恋人のチャームと一緒です。
 
『今夜の月は一段と美しいわ!』
 
『そうだね。それに、満月はみんなの心を満たしてくれる』
 
湖のほとりには、他の動物たちもいました。
みんなうっとりと月を眺めています。
ロッキーとチャームは寄り添い、湖に浮かんだ月が、時折波に揺れるのを楽しんでいました。
 
 
夜が更け、全てが眠りについた頃、ロッキーだけが湖のほとりにぽつんと座っていました。
ロッキーは、夜空に浮かぶ月に向かって呟きました。
 
『お月さま、ぼくはみんなのように強くなりたい・・今の僕ではチャームに求婚なんて出来ないよ。どうしたら強くなれるのかな?』
 
ロッキーの悩みを聞いていたお月さまは考え、そして答えました。
 
『強さとは、腕力だけではないよ。意志の強さ、知恵、そして優しさも時には強いものになるんだよ』
 
ロッキーはその声に驚き、キョロキョロと辺りを見回しました。
 
『だれ?だれなの?』
 
『ここだよ』

その声は頭上から聞こえてきました。

『えっ、お、お月様?』

『君の声が聞えたのでね』

『お月様がしゃべった!!』
 
ロッキーは腰を抜かしてしまいそうになりました。
 
『ああ、びっくりしたぁ!!』

『驚かせて悪かった』
 
お月様は謝りながら可笑しそうに笑いました。
 
『あのぉー、お月様のさっきの話だけど、ぼくには誇れるものも強さの欠片も持ち合わせていないんだけど・・・その場合はどうしたらいいの?』
 
『う~ん』
 
またもやお月さまは考え込みました。
 
『みんなを見返すことが出来ればいいのさ!』
 
『どうやって?』
 
『う~ん』
 
お月さまもロッキーも、考え込んでしまいました。
その時、遠くでチャプンと音がしました。
ロッキーが振り向くと、辺りが急に真っ暗になりました。
 
『なっ、なに?どうなっているの?真っ暗で何にも見えないよ!!』
 
夜空を見上げると、そこには星たちがいるだけで、お月さまの姿はありませんでした。
 
『お月さま?どこ?どこに隠れているの?』
 
すると、遠くでお月さまの声がしました。
 
『ロッキー!助けてくれぇ~!』
 
『うそでしょ?まさかお月さまがさらわれた?・・・ た、大変だぁ~!!』
 
ロッキーは、お月様の声がした方角へと走り出しました。
 
 
魔女のオードリーは念願のお月さまをやっとのことで捉え、はしゃいでいました。
 
「やったぁ~!やったぁ~!お月様を捕まえたぁ~!」
 
すると、魔法の木箱に入れられたお月さまが言いました。
 
『こんなことをして、私をどうするつもりなのだい?』
 
「あんたはとても綺麗だからあたいの傍にず~といてもらうんだよ」
 
『君は私をこんな狭いところにずっと閉じ込めておくつもりなのかい?』
 
「そんなことはしないよ。あたいが好きなのはまんまるのお月様でなくて、三日月のお月様なんだ。三日月になったらあんたをネックレスにしてあげる!窮屈だろうけど、それまではその中で我慢してね!」
 
『どうして私なのかな?夜空に輝く星の方がよっぽどいいと思うけどね』
 
「星はたくさん有り過ぎてつまらないよ!だけどあんたは違う。あんたはこの世にたった一つしかない私の宝物になるのさ!」
 
オードリーはそう言って、にんまりと笑いました。
その頃、ロッキーは森の中にいました。
 


『暗くて何も見えないよ~!お月さま~!どこにいるの~』
 
 
ロッキーは7日間森をさまよい、やっとのことで、森の西側にある大きな木の下のオードリーの住処を見つけました。
ロッキーが木の隙間から覗いてみると、オードリーが箱の中の月に向かってなにやら呪文を唱えています。
ロッキーは暫く様子を見ることにしました。
 
「完成~‼
うわぁ~!なんて素敵なネックレスなの!」
 
オードリーは、お月様のネックレスをさっそく首にかけました。
 
「あたいにピッタリ!お月様もそう思うでしょ?」
 
そういいながら、嬉しさのあまり、オードリーは踊り始めました。
そして、あまりにもはしゃぎ過ぎて飛び跳ねたので、お月様のネックレスが、オードリーの首からスポッと抜けて宙に舞いあがりました。
「あっ!!」という声。
その瞬間、覗いていたロッキーがネックレスの鎖を掴みました。
ロッキーはネックレスを自分の首に掛けると、思いっきり走り出しました。
 
「まてぇ~!」
 
オードリーが物凄いスピードでロッキーを追いかけて来ます。
 
『早く!早く!もっと走って!』
 
『もう!お月さま!そんなに急がせないでよぉ』
 
ロッキーは森の南側にある熊の住処である洞窟に逃げ込みました。
ロッキーが勢い良く飛び込んで来たので、熊たちは何事かと、みんな集まって来ました。
 
オードリーも直ぐにやって来ました。
 
「こらっ!泥棒め!あたいのお月さまを返せ!!」
 
『なにを言っているんだ!お月さまを盗んだのは君じゃないか!』
 
熊たちは呆気にとられ、お月さまはロッキーとオードリーを交互に見上げながら、行く末を黙って見守っています。
 
「今はあたいのもんだ!!」
 
『ちがう!お月さまは誰のものでもないよ!』
 
そうロッキーが言った時、洞窟の入り口で、ドカッという音がしました。
なんと、空から老人が降って来たのです。
老人は腰に手をあてながら洞窟に入って来ました。
 
「まったくもう、真っ暗なものだから落っこちてしまったよ!アイタタ・・・月明かりがないと、ほうきも役立たずじゃ!」
 
「おじいちゃん!!」
 
「オードリー、また悪さをしおって!バアさんは今、手が離せなくてな。アイタタタ・・」
 
魔法使いの老人は、ロッキーの首に掛かっているお月さまを見ながら言いました。
 
「やれやれ。オードリーの我が儘も困ったものじゃ。さてと、オードリー。ワシがここへ来た訳はもう分かっているな!バァさんの所へ帰るぞ!」
 
オードリーは抵抗しても無駄だと思ったのか、うなだれて老人の手をとり、トボトボと歩いて行きました。
 
『おじいさん待って!お月さまはどうなるの?』
 
ロッキーが慌てていいました。
 
「おお、そうじゃった!そうじゃった!忘れておった!月明かりがないとワシも困るでな!」
 
魔法使いの老人は、ロッキーからネックレスを受け取ると、何やらブツブツと呪文を唱えた後、夜空に投げました。
すると、お月さまはいつものように夜空に浮かび、魔法使いを乗せたほうきは、星よりも小さくなって消えて行きました。
 
ロッキーは、今回の活躍で仲間たちから認められ、チャームと結婚しました。そして、あの日以来、ロッキーの首には月の痕がくっきりと残り、そのせいで、いつしか月の輪熊と呼ばれるようになりました。



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