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しーちゃんとすずらん

*三週間前

「しーちゃん、すずらんの苗が来たから一緒に植えようか」と、あーちゃんがしーちゃんを誘いました。
好奇心旺盛のしーちゃんは、もちろん「やるやる!」とはりきって言いました。

玄関横の小さなスペースにスコップで穴を掘り、すずらんの苗を優しく植え、プレートにマジックで『すずらん』と書き込みました。
それから、小人のドアを付け、小石を撒いたあと、ガチャを回したマスコットを置きました。
そして、最後にたっぷりの水をあげて完成しました。


*ニ週間前

あーちゃんはしーちゃんのママのお母さんで、一緒には暮らしていません。
しーちゃんのママは保育士です。両親が仕事をしているので、平日はしーちゃんも保育園に通っています。
週末には、電車とバスに乗ってあーちゃん家にやってくるのです。

「あーちゃん、あーちゃん、ちいさいつぼみがでてきてるよ」 
しーちゃんは、とても嬉しそうです。
「そうね。ちゃんと育ってるね。咲くのが楽しみだね」
「らいしゅうには、おはながさいているかな?」
「どうかしらね。咲くのが楽しみね」
しーちゃんとあーちゃんは並んで座りながら、小さな蕾に胸を膨らませました。


*一週間前

ここしぱらくは、天気が荒れ模様だったので、すずらんが折れたりしないかと、あーちゃんは、心配しながら見守っていました。
その心配をよそに、すずらんの葉っぱの先から伸びた茎には、いくつもの蕾がつき、その蕾が割れて白い花が生まれ出ようとしていました。

しーちゃんは、すずらんの葉っぱをちょんちょんと指でつつきながら「かわいいね、あかちゃんみたいだね」と言ったあと、お水をあげました。
「来週、しーちゃんが来た時には咲いているかもね」
「やったぁ~!どんなはながさくのかなぁ」
「あっ!そうか、しーちゃん、すずらんの花がどんな花なのか教えてなかったわね」
あーちゃんはうっかりしていました。
携帯を取り出して『すずらん』を検索しようとすると、しーちゃんは「あーちゃん、しらべなくていいよ。どんなはながさくかたのしみしてるから」
「そっか、わかった」
あーちゃんはなるほど、そういう楽しみ方もあるかと思いました。


*今週

春の天気は変わりやすく、さっきまで雨が降っていたのに急に晴れたり、雨風が強くなって嵐のようになったりと忙しい。
そんな天気も何のその。
すずらんは逞しく育ち、先日、可憐な花を咲かせました。

「ママ〜、みてみて!すずらんがさいてるよ!」
あーちゃん家にやって来たしーちゃんは、家に入る前にすずらんを見つけて大はしゃぎです。
「これがすずらんかぁ〜!かわいい!」
「かわいいわね」
ママもしーちゃんの横に並んで、すずらんを観察しました。

しーちゃんは、玄関のドアを開けると、興奮気味に叫びました。
「あーちゃん!しーちゃんのすずらんがさいてるよ!」
あーちゃんは、にこにこしながらリビングから玄関に出てきました。
「しーちゃん、いらっしゃい」
「あーちゃん、すずらんさいたよ!いっしょにみよ!」
「はいはい」
しーちゃんは、あーちゃんの手を引っ張りながら歩き、また、すずらんの前にやって来ました。
「あーちゃん、すずらんさいてよかったねー、かわいいねー」
春風の中、三人は仲良く肩を並べ、暫くの間すずらんを眺めました。

この時、あーちゃんは『次は、しーちゃんと何をしようかな』と考えていました。




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