年明けの頃2
【 入社 】
意味も分からず、流されるまま。
行き着く場所はどこでしょう。流れ着く場所も知らないまま。
狂い始めたのはどの場所からだったのだろう。
家に帰った私に母は冷ややかだった。
「どうだった?」
「交通費、貰った~」
私はいつものおどけた調子で答えた。
「そう」
「で、明日も説明会だって」
躊躇いつつも言ってみる。
「明日も?」
やっぱり母の顔は曇る。
「……うん」
「いつの間にか入社なんて事になってるんじゃない?保険屋は口が上手いから」
母の嫌味を含む言葉に私は笑う。
「そんな事ないよ」
不安を抱えて放った言葉に説得力はなかった。
次の日も晴れていた。冬なのに雪は未だ本格的には降っていない。
晴れた日には雪は溶けて青空が覗く。
父の仕事を手伝いながら、2人を待って一緒に移動。
昨日と同じ場所に着いて、目の前にあったのは……書類だった。
――疑問はあった。
「これと、これとここに記入して」
説明をしてくれる指導者さん。
――疑問はたくさんあったはずなのに、何一つ言葉にならなかった。
「あの。これ? 大丈夫なんですか?」
頭の中で膨れ上がる疑問からやっと出た言葉が、それだった。
「大丈夫。嫌になったら、辞めればいいのよ」
聞きたかったのは、そんなことじゃなかった。
「時間がないから、早くしてね」
急かされるように、記入していく。
一つ一つの文字が躊躇いがちに止まる。
「……あの」
言葉は続かない。
「書けた? あ。判子、持ってきてるよね。ほら、書いて」
全ての動作がいつにも増して、遅い。
だけど、止まる事は無い。
――疑問は何一つ消えない。
全てを記入し終えて、説明会場に向かう。
説明会は終っていた。
何をしてるんだろうと思った。
説明会なんて名ばかりで……。
「明日、入社式ね」
指導者さんが隣でそう言った。
何で???
そう思ったはずだった。
――疑問は言葉にはならなかった。
流されていた。
家に帰って私は笑って母と妹たちに言った。
「何か、知らないうちに入社する事になったみたい」
「何やってるの!?」
母も妹も同じ事を言った。
「何やってるんだろうね?」
私は笑って答えた。
どうにかなるだろうと思った。
この時はまだそう思っていた。
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