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☆20☆ コンサート2

「で、当日はどうする?」
 社員さんは一通り自慢をした後に、そう言った。

「え?どうするか分からないです」
 私はチケットを手にしているのだし、一人で動く気だった。なぜ、予定をわざわざ社員に伝えなければいけないのか分からなかった。

「どこかで待ち合わせて、一緒に行く?」
「用事があるので、待ち合わせは無理です」

 やっとデートの誘いだと理解したが、だったらもっとスマートな誘い方がある気がする。
 私は、手取り足取り男性を褒めながらデートをするなんて出来ないし、そんな疲れる人間と一緒にいたいとは思わない。
 そして、チケットの料金は私が払っているのだから、私の好きに動きたい。

「そっか。だったら、当日連絡用の携帯番号を渡しておくね」

 携帯番号を書いた紙を押し付けられたと同時に、休憩時間終了の時間になって人が移動し始めた。
 私は受け取ってしまった紙をポケットに突っ込んで、仕事に戻った。

 コンサート前日まで、社員さんに「どうする?」と散々聞かれた。
「前後に予定を入れたので、コンサートの時間しかありません」と答えておいた。
 連絡先はもらっていたが、紙はポケットの中で洗濯された。連絡をする気はなく、社員さんにも私の番号は知らせていない。

 コンサートに行く気は消え去っていた。週末の外出が続いていて、疲れが取れていなかった。
 コンサート当日は、行かなかった。気分も体調も悪くて、誰の顔も見たくなかった。

 休憩時間に社員さんが休憩所にやって来た。
 私の傍に座ったまま、黙っている。いつものように話しかけてこないが、気になって仕方がない。
 すると、傍で鼻をすする音が聞こえた。社員さんに目をやると、泣いていた。

 これ見よがしに隣で泣かれるとは思わなかった。
 私が慰めるのを待っているようにしか見えない。

 しくしくと泣く社員さんを不審げに周囲が見ていく。傍に座られては、私が何かをしてしまったみたいに見える。

「どうしたの?」

 とうとう同僚が私へ、聞いてきた。指は社員さんをひっそりと指し、顔だけがこちらに向けられている。

「……分からないです」
 私はひきつった顔で答えるしかなかった。

「そう?何かしたんじゃないの?」
 何かしたというのだろうか。いや。しなかったから、こうなっている。
 けれど、それを説明する気はなかった。私は「本当に知らないです」と言うしかなかった。読もうと思った本のページはその日一日動かなかった。

 それきり、社員さんの顔はみなかった。しばらくして、異動になったのだと聞いた。


 



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