0話 祖先と洪水
とおい とおい むかしの おはなし
山を見上げ、海を見下ろす土地にご先祖様は住んでいた。
島国のどこでもある風景。
わずかな平地に水田を作り、作物を育て集落を築き上げていた。
それらは洪水であっという間に壊される。
そしてまた、一からのやり直し。
何度それが続いたのかは知らない。
ある時、地面が揺れた。
川はいつも以上に水をたたえて、田畑を家々を飲み込んだ。
田畑を元に戻すには難しく、住む家さえも消え去った。
そして、人の命も。
ご先祖様は、その場所を離れた。
もっと安全でもっと安心できる土地。
洪水の被害のない土地を求めて、移動した。
その移動先が、私が今、暮らしている土地らしい。
川からは遠く離れた土地。
もともと、川の傍に住んでいた事は『地名』だけが示している。
川の傍の地名と、ここの地名が同じなのだ。
洪水の話はお寺の坊さん毎年一度、地域で話している事。
そして、その証拠はあちこちにある。
ただの伝承ではなくて、事実。
忘れ去られていく事実。
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