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☆5☆ お金1

 再び、メールが何回か続いた相手の一人の話。
 そうさんはカウンセリングを受けていて、学生だが学校は休学していると言っていた。
 かなりカウンセリングの先生に心酔していて、不安定な子なんだなと思った。

 その子を誘ったのは、一人で会長様の歌を聞きに行けなかったからだ。
 ギクシャクした関係が続いていて、会長様が喫茶店の隅で歌うという事を知っても、『行くね』とも言えなかった。
 とりあえず誰でもいいけれども、会長様との共通の知り合いと一緒に行くのも気が引けた。
 だから、何も知らない相手を選んだ。

 それが、双さんだった。

 双さんには、「知り合いが、喫茶店の隅で歌わせてもらうんです。良かったら一緒に聞きませんか?」とだけ、送った。
 返事は「ちょうど暇だし、いいですよ」だった。
 喫茶店は池袋駅の近くにあった。会長様から教えてもらった隠れ家的な喫茶店だった。

 双さんは先に待ち合わせ場所についていた。
 あいさつをすませると、双さんは言った。

「悪いけど、お金を貸してほしい。早くついちゃったから、ゲーセンで散在しちゃってお金が無くなっちゃったんだ」

 会ってすぐに、お金を貸せと言われるとは思わなかった。それも、ゲーセンで使ったからなどと言う理由なのだから、一瞬私は耳を疑ってしまった。
 そして即座に、これは返って来ないものとして渡さないとなと覚悟を決めた。

「いいですよ」

 なるべく、気楽な感じに言っていくらかのお金を渡した。

 予定では喫茶店で飲食をして、歌を聞いて帰るという段取りだった。
 ふと、おごりますよでいいのでは?と思ったが、渡したお金は即座に自販機に消えた。

「これでジュースが飲める。喉が渇いていたんだ」

 彼女は悪びれる様子もなく、自販機からジュースを取り出した。
 これは、『金銭感覚ゼロ』と思って諦めるしかないなと思った。
 会長様の歌を聞きに行くチケット代と思って、心を静めるしかない。

 少し早めに喫茶店につくと、「まだ、営業時間ではないんです」と言われてしまった。
 時計を見ると、わずかに開店時間には早かった。

「えー。残念」

 双さんが思ったままを口にする。

「でも、あと少しですし、何もまだ出せないけど座っているだけなら、どうぞ」

 店員さんの厚意でお店の中に入れてもらった。
 準備中のお店の中で、双さんと話しながら、開店時間を待つ。やがて、開店時間を過ぎたので、食事を注文した。
 双さんのカウンセリングの話、学校の話、私の事は別に聞かれないので話す必要はなかった。
 私はただ、いつものように聞き役に徹した。話さない方が楽だった。

 やがて、時間になったが、会長様の姿は見えなかった。

「本当にこの時間?」
と、双さんに聞かれてしまう。私は会長様に来る事を伝えていないのだから、何とも言えない。
 日時変更のお知らせは見ていない。ここで、この時間やると言うお知らせのブログを、見ただけだ。

「この時間のはず……」


 



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