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13話 五月病

 会社へは電車で行く事もある。
 その日は電車に乗っていた。

「あれ?カイヌシ??」

 見ると、こたみちゃんだった。
 高校卒業以降は連絡を一切取っていない。
 久しぶりなこたみちゃんが、そこにいた。

「今、何しているの?私はね」

 と近況の交換をして、ついでにメルアドの交換もした。
 再び、こたみちゃんとつながった。

 仕事はまだ続いていた。
 交差点の赤信号を見ると飛び出したくなったり、電車を見たら飛び込みたくなったりした。
 死ぬかどうかはどうでも良くて、『明日会社に行かないで済む方法』として目の前にあったのがそれだった。
 ギリギリの理性が、それはマズイと訴えていた。

 会社の帰りにコンビニエンスストアに寄った。
 そこで、カッターを買った。手に収まる程度の小さめのカッター。
 腕に当てて引くと、気分がスッとした。

 仕事は相変わらず、何もできていなかった。
 しゃべる事が苦手なのだから、できることなどほとんどない。
 毎日、担当地域を回って、ポスティングをして、公園に寄って、本屋に入って時間を過ごした。
 そんなルーチンが出来上がっていた。

 ある日、公園にいると、公園の入り口に人の気配がした。
 顔を上げると、近くの老人ホームのお年寄りが職員と一緒にやってきていた。
 公園に入るに入れなかったのかもしれない。
 カッターを仕舞って、公園を出ると、すれ違い様すれちがいざまに「すみません」と言われた。
 呼び止める声ではなくて、追い出してすみませんと言う意味だと受け取った。
 彼らが私の事をどう見ていたのかよくわからない。
 ただ人がいるから、入って来なかっただけなのか、おかしいと思ったのか。

 ある日、雨が降っている中、びしょれで会社に戻った。
 傘をさす気力はなかった。
 腕は血まみれで、薄いブラウスはポツポツと血の跡が浮かんだ。

 その傷に上司が気がついた。
「何でこんな事?」
 と言った上司に、私は無言を貫いた。

『辞めたいと言ったのを、続けろと言ったのはあんただ』

 と叫びたいのを抑えて、無言を貫いた。
 あげはちゃんもやってきて、私に何があったのかを聞く。
 私は、紙で伝えた。

 でもそれらは、『私の勝手な被害妄想』で終わった。

 仕事はもう出来なかった。






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