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☆21☆ 隣人1

 アパートの隣の部屋に、どんな人がいるのか私は知らなかった。

 部署異動になって、私はそれまでとは違う棟での仕事になった。
 そこは男性ばかりで、女性は私一人。よくよく話を聞くと「男性が欲しかったけど、女性を回されてしまった」と言う事だった。
 その言葉の通り、そこは力仕事が多かった。

 私は男性の中に混じって、仕事を始めた。

 異動してしばらくすると、アパートの部屋の前で声をかけられた。

「カタチさん……ですよね?」

 声の主は隣の部屋の人だった。私はマジマジとその男性の顔を見る。
「僕ですよ。ほら、仕事で隣の部署で働いている」
「え?あ……」
 そこまで言われてやっと、そういえば見た顔だと気がついた。思わず、指さして笑ってしまう。

「隣だったんですね。初めて知りました。いや。人がいるのは知っていたけど、同じ会社の人だとは知らなくて」

 私は彼を全く認識していなかったが、彼は私を認識している口ぶりだった。
 そこから、顔を合わせると挨拶あいさつをするようになった。

 ある日、帰りの時間が一緒になった。

「夕食を一緒に食べませんか。近くのファミレスにでも行って、話をしながらでも」
 アパートに近づいたところでそう誘われた。

「疲れているので、出かけたくないです」

「少しだけでも。ほら、すぐそこのお店なら行ってもすぐ帰る事が出来るし」

 確かにアパートの近くには飲食店があったが、ここは職場からも近くて知り合いが出入りしている可能性もある。

「いえ。今日は疲れているので」
 疲れているのに、このやり取りを続けるのは本当に疲れる。

「だったら、いったん帰ってから荷物を置いてゆっくり、食事に行こう」

「疲れているので……」「だから……」

 この繰り返しを何度かして、私は負けた。
 荷物を置いて、食事に行くという事が決定した。

「じゃぁ。荷物を置いて、一息ついたら、俺の部屋に来て」

 自分の部屋に入って、このまま寝てしまおうかと思った。しかし、隣人がこちらの部屋に来て上がりこまれるのも困る。
 視界の端に洗濯物がまっているのが見えてしまった。
 洗濯機はドアの外にあるので、隣人が洗濯機の音に気がついて部屋に来る可能性の方が高い。

 結局、さっさと食事を終わらせた方がマシという結論に至った。

 20分ほどたったところで、隣人の部屋のチャイムを鳴らす。

「早いね。入って、入って」
「……お店は?」

「ああ。俺、まだ準備が出来てなくて、少し部屋に入って、待っていて」
「だったら、自分の部屋に戻るから」
「いや。少しだから、俺の部屋で待っていていいよ」

 また、このやり取りかと思うとウンザリした。私はお店に行く可能性がない事も考えて、携帯のタイマーをセットした。

「お邪魔します」

 部屋の間取りは、私の部屋と逆転していたが同じだった。
 思ったよりも片付いているが、たばこのにおいが充満している。
 隣人はガラリと窓を開けて、「たばこのにおい、大丈夫?」と聞いて来た。

「大丈夫です」

 隣人はテレビをつけた。敷きっぱなしの布団にローテーブルにクッション。
 壁を見ると、少し汚れていた。ヘビースモーカーなのかなと思った。


 



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