13話 インナーチャイルド
予約した講座を忘れるという危うい状況で、もう一つ予約した講座がある。
『宇宙講座』というもので……説明は難しい。自分でも何でその講座に行こうと思ったのか、謎でしかない。宇宙講座となっているが、『宇宙の話をする講座』ではない。
こちらも『がっつりスピリチュアル』なのだが、説明が出来ないほど謎な講座としか、説明が出来ない。
それまではスピリチュアルと言っても、大抵は『占い』や『ヒーリング』など何かしらの技術的な講座を多く受けていた。
けれど、この『宇宙講座』では、具体的な技術はない。
何をするのか分からないが、惹かれたから参加した。という、超無謀な参加理由。
ついでにこの頃、体調も最悪だった。
この講座は月一で4回の講座だった。
その最初の日。
講座の存在を忘れる事なく覚えていた。
覚えていたのは良いけれども、腰が激痛に襲われていた。
一歩歩くたびに、立ち止まる……という痛みを数日前に経験して、それに比べると痛みは引いていた。
けれども、出歩きたい気分ではなかった。
行けないと連絡を入れようか……という考えが頭をよぎったが、そうすると次からも行けなくなって結局キャンセルになりそうだった。完全キャンセルだけは避けたいと思った。
結局、痛みに耐えつつ行く。
講座が始まって、最初はいくつかのグループに分かれて自己紹介だった。
講座ではよくあるパターン。
それまでも何度か経験している。名前を言って、「よろしくお願いします」で終わりでいい。
輪になって、順番に自己紹介が繰り広げられる。
私の番になった。
……。
………。
…………。
久しぶりに最悪のパターンにハマった。
同じグループの人たちの視線が突き刺さる。
以前はいつだった?……久しぶりすぎて、自分でも覚えていない。
そして、以前と少し感覚が違う。
『何も言えなくなる』という状態は同じ。
でも、以前なら『早くしなきゃ。何か言わなきゃ。相手も困らせてしまう』というパニックに襲われていた。
今は『ああ。やらかしちゃった』と冷静だった。
私の中は冷静なのだが、一向に言葉が出てこない。
うむ。困った。と一人、自分の中でごちる。
「お名前は?」
参加者の一人が、私に問いかけてくる。
……うん。名前を言えばいい事は分かっている。
分かっているのだが……。
これ……は、なんだろうね。
と、存在しない存在に困っていた。
『えー。言っちゃダメ』
答えたのは私ではない。目の前の何か。
見た目は少女で、たぶん以前のヒプノ講座からついてきてる「インナーチャイルドっぽい何か」
『言っちゃダメだよ。黙ってて』
言わないのは困ると思っていても、言葉が出てくるわけではない。
インナーチャイルドっぽい何かと言いつつ、後でこれは『私の直感』と言うものだったらしいと知った。
目に見えるものだけを信じたいという気持ちが、私の『直感』に人格っぽい何かを付けたらしい。ここでは、『インナーチャイルドっぽい何か』にしておく。
そんなこんなで、『黙ってて』『それは困る』の押し問答で、自己紹介の時間が消えた。傍から見たら「三分間ジッと黙っていた女」がそこにいるだけだった。
空しく時間が過ぎて次の人に移っていった。
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