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なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか? 第3章 その2

トップスター専用のスター鏡 

舞台で1番忙しいのは何といってもトップスターです。
出ずっぱりの上に着替えも極端に多いのですから、トップスター専用の着替え場所があります。
それは舞台から入ってすぐの袖にあり、舞台に一番近い場所には大きな「スター鏡」があるのです。
鏡の周囲にはライトが額縁のようについていて、まさにスター鏡です。
この場所でこの鏡の前で着替えられることが生徒の永遠の憧れなのです。

「順序」の段取り

次は着替える「順序」です。
男役はシャツをパンツの中に入れ、ベストを着てから上着という順序となります。
前開きの衣装が多いので男役は自分で着替える場合がよくあるのですが、娘役の場合、背中にファスナーがあるドレスが多く、衣装部さんの手を借りないと着られないことが多いのです。

『ベルサイユのばら』の衣装のような輪っかのドレスのときは、輪っかを床に広げてその上にドレスをかぶせます。
そうするとドーナツのような形になります。
急ぐときはそのドーナツの中に靴をスタンバイしておきます。
舞台から駆け込んでくると用意しておいたドレスの隣で今の衣装を脱いで、ドーナツになっている隣のドレスの靴めがけて飛び込み、そのままドレスをウエストまで引き上げます。
髪飾りをつけ直したりしている間に衣装部さんが背中のファスナーを上げてくれます。

同じ衣装の着替えでも、順序を間違うとかなりもたついてしまうのです。
基本は「いち早く舞台に出られる状態にすること」。
衣装さえ着替えていれば多少髪型がおかしくてもアクセサリーなしでも「出られない」状態は避けられます。
早く着替えられる方法を決めたら、手順を変えないこと。きちんと準備をしておくことです。
そのためにヘアピンの数も置いておく向きまでも決めておくのです。

「工夫」の段取り……スピードはアイデア次第!

三つ目は「工夫」です。
この点は本当にさまざまなことをやりました。
ホックをマジックテープにする。
イヤリングをつける時間がないのでターバンなどに前もって縫いつけておく。
男役のカッターシャツは汗をかいていると袖が腕にくっついて着にくいので、スターになるとシャツの袖を切ってノースリーブにしておき、上着の袖口からシャツの袖口がのぞいているように見せるため、あらかじめ袖口のみを縫いつけておいたりします。
これも工夫です。
蝶ネクタイも衣装に直接縫いつけておいたり、シャツのボタンはマジックテープになどなど。
まれには、シャツとベストの前身ごろだけを上着に縫いつけておいて、上着を着るとシャツもベストも着ているように見える工夫もしました。

衣装部さんの手が回らない下級生時代には、次の場面の衣装を着込んでおくということまでしました。
地方公演のとき、あまりに忙しくてどうやっても着替える時間が無いことがありました。
下に白のパンツにハッピ姿(これは男役)、その上から娘役の着物、帯は結んだりほどいたりしている時間が無いので、前もって結んでおいてからだの横でマジックテープでとめることもしました。
娘役の着物姿の哀れなくらい太いこと。
それもそのはず、下に男役の衣装を着てその上に娘役の着物ですから。
普通は帯でしっかりしめるのに、それもできずにぶわぶわで。
客席で見ていたファンの人たちが笑いすぎて涙を流していたそうです。
でも間に合わないよりは笑われてでも出ることが最優先なのです。これはかなり過酷なエピソードです。

こうして毎回真剣に早替わりをしますが、初日からしばらくはギリギリでしかできなかった着替えが、4、5日もすると余裕をもってできるようになるから不思議です。
「場所」「順序」「工夫」の段取りに慣れて、無駄な動きが無くなるからなのです。

「なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか?」桐生のぼる著書より 
                       つづく・・・・
いよいよ次はタイトルの「なぜ下級生は廊下を直角に歩くのか?」の秘密が明かされます!ぜひご覧くださいね。

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