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なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか? 第3章 その1

第3章 舞台裏

衣装の着替え。なぜあんなに早いのか

宝塚のショーやレビューではめまぐるしく場面が変わり、そのたびに出演者は衣装を着替えては出て、袖に入ってはまた着替えて舞台へ。
なぜ、あれほどの早さで着替えることができるのでしょうか。
そこには、緻密な「段取り」があるのです。

頭の先からつま先まで全部着替えて約1分

華やかな舞台の裏側、袖や楽屋はてんてこ舞い。入れ替わり立ち替わり頻繁に出演者が舞台を出入りします。
いったい何人が出ているのかわからないくらいの大人数です。
お客様やファンはお目当てのスターがどんどん出てくれるとうれしいでしょうが、出演している方は本当に忙しいのです! 
今、出ている場面が終わりに近づくと次の早替わりが気になって「早く袖に入りたい」と少し不謹慎なことを考えてしまうくらい、秒単位での早替わりもあります。

宝塚の早替わりは有名ですが、頭の先からつま先まで、つまり帽子などのかぶり物から衣装、靴まですっかり全部替えても1分あればだいたいできます。
さらにマイクをつけ直し、カツラやアクセサリーまで替えて再び舞台へ出ていくのです。

なぜ、こんなに早く着替えることができるのでしょうか。

早替わりは段取りが9割!

早替わりには「場所」「順序」「工夫」の三つの段取りが重要なのです。
まずは「場所」
舞台の下手側には早替わり室という部屋があり、上級生から順に1組から4組に割り振られた場所が決められています。入り口はカーテンになっていて、舞台から勢いよく駆け込んでくることができるようになっています。
部屋の中の壁は3面とも鏡です。
2階にある衣装室まで上がって着替える暇がないため、早替わり室に衣装を持って下りてつって準備しておくのですが、その場所も上級生から順番に好きな場所を取っていきます。

「早く」を優先に、入り口のすぐそばが好きな人、入り口は人の出入りが激しいので奥が好きな人などさまざまですので、上級生が先に場所を決めてから、下級生は残っているところに決めるのです。
鏡の下には化粧道具が置ける台があり、上は帽子やかぶり物が置けるような工夫がされていてとても便利になっています。

「場所」の段取り

しかし下級生の3組、4組にはこのような早替わり室はなく、下手の舞台のそばの花道の裏側が早替わり場所となります。
それも舞台に近い方が3組です。
壁には釘があって衣装をつっておきますが、これもその組の中の上級生から順に舞台から近い所になります。

衣装をつっている場所の下にお風呂場にあるようなかごを置いて、自分の靴や小物を入れておきます。
人の衣装を着て出てしまったりしては大変ですから。

ショーやレビューで人数の多い場面が増えると、この早替わりの場所が3組でいっぱいになってしまうことがあります。
では4組の人たちはどこで着替えるのでしょうか?
奈落になります。
舞台から走ってきて袖に入り、その勢いで楽屋の階段を駆け下りて奈落へ行き、着替えてまた駆け上がってきて舞台へ出る!
遠い! しかも階段! もう大変です。
仕方がないですね、下級生ですから。

早替わりのときは衣装部さんが待ち構えてくれているのですが、さすがに奈落まではきてくれません。
そんなときは生徒どうしが協力し合って、背中のファスナーを下げたりホックを留め合ったりします。

大混雑の舞台裏ですが、「今出ている人」が演技を終えてちゃんと袖に入ることが優先になります。
舞台から勢いよくはけるためには、先頭の人が袖に入ってからもかなりのスピードで奥まで走っていかないと後ろに人がつっかえて将棋倒しになってしまいます。ですから、次の出番の人たちは袖で待機し、壁に背中をくっつけて邪魔にならないようによけて通してあげます。
大きな衣装やスカートを着ている場合は、入ってくる人が衣装に引っかかって転ばないように細心の注意を払い、自分の衣装は抱え上げたりするのです。
入る人が優先で、みんなが入った後に出る人がさーっと出ていくのです。

「なぜ、下級生は廊下を直角に歩くのか?」桐生のぼる著書より 
                        つづく・・・・

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