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MICE視点でみる東京オリンピックの開会式と閉会式、パラへの期待

 オリンピックの開会式、閉会式は国家挙げての一大セレモニー。MICE的にいうと、日本が見せられる最大のテーマパーティ。どんな素材で、演出で見せることができるか、予算に糸目をつけない、最高のエンターテイナーが魅せる最大級のショーケースにもなるわけです。
 
 MICEのテーマパーティとは、ひとつのテーマで構成・演出するパーティのこと。大きなイベントのガラディナーやインセンティブの表彰式などで行われるド派手なパーティです。ホテルなどのベニュー側がプランを用意していることもありますが、ユニークベニューでのオリジナルなテーマで特別な体験やサプライズを求める組織や団体もあります。

 206もの国と地域が参加する最大のスポーツイベントであり、世界に放送されることを考えると、インバウンド市場にこれほど日本をアピールできるイベントはありません。今回、コロナ禍であったことは差し引いても、いや、コロナ禍だからこそ、CGやプロジェクションマッピングを多用し、さらにはバーチャルライブとかボーカロイドとかヤマハの技術を駆使したものもできたのでは。中止になったねぶたや日本の花火(会場で打ち上げられたのは欧州製では?という記事を拝見)を再現できないのかとか、といろいろ考えてしまいました。

 どうしても比べてしまうのが、2012年のロンドンオリンピックの開会式。ピンクフロイドのジャケ写の豚の映像で始まり、会場ではシェイクスピアから児童文学、産業革命やNHS(国営の医療サービス)、映画音楽からUKロック、 ミスタービーンにモンティパイソン。女王陛下とジェームスボンドが登場したと思ったらベッカムにポール・マッカートニーまで。もうイギリスの歴史と文化、エンターテイメントがてんこ盛り。ダニー・ボイルが総合演出した式典には、さまざまな仕掛けとストーリーがあり、何度みても面白い。

 MICE的には、007はイギリスで使われやすいテーマ。パーティの主役が007のテーマ曲とともにジェームスボンドになって登場、という演出を見たことがあります。ウエストエンドのミュージカルや、シックスティーズファッションもテーマに使われます。オリンピックのような豪華な演出はできなくても、その国ならではのテーマとして参考になるわけで、ロンドンオリンピックの開会式は古典からポップカルチャーまでさまざまなネタのオンパレードでした。

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 今回の東京の開会式と閉会式、テーマパーティに使えるものはあったでしょうか。ピクトグラム?歌舞伎?東京音頭?オリンピックマーチ?これらは1964年の東京オリンピックの遺産。和太鼓?宝塚?コンテンポラリーダンス? アニメとかゆるキャラ(許諾が必要ですが)、あるいは着物とか日本の制服、コスプレ文化が登場するとイベントでは使いやすかったかと(ウズベキスタンの新体操チームはセーラームーンの衣装でしたね)。ピクトグラムはチームビルディングで使えるかもしれません。一方、開会式で使われたインテル® ドローン・ライト・ショーはしっかり各種プランを公表しています。

放送禁止だった歌を大合唱したロンドンパラリンピック開会式

 ロンドンパラリンピックでは障がい者でもあるロックミュージシャン、イアン・デューリー(1942-2000)が1981年に発表し、当時BBCで放送禁止になったSpasticus Autisticus(スパスティカス・オーティスティカス)のパフォーマンスがありました。この歌は国連が1981年に定めた国際障害者年に対して、デューリーが書いたアンチ・チャリティーソング。
(Spasticus Autisticusの歌詞一部引用、意訳は由麻)
Hello to you out there in Normal Land 健常の世界にいるみなさんこんにちは
You may not comprehend my tale or understand あんたたちに俺の話はわからないだろう
 以下の歌詞も、「俺の障がいのことはわかっても、俺の想いは読み取ろうとしない」「俺と同じ状態でないことを神に感謝しな」と本音炸裂です。
※Spasticus(脳性麻痺者spasticとローマの剣闘士スパルタカスをかけた造語)、Autisticus(同じく自閉症の人autisticの造語)

 故ホーキング博士の後ろで、障がい者パフォーミングアーツ劇団であるグレイアイシアターカンパニーのメンバーたちががSpasticus!Autisticus!とノリノリで叫ぶ様子は、最高にロックでパンクな演出でした。なかには「平等!」のプラカードを持つ人も。さすがモンティパイソンを生んだ国と感心するとともに、障がいを持つ人たちが生き生きとロックする姿に感動してしまいました(イギリスに住んでいたときにボランティアで関わっていたという個人的な背景もありますが)。
 公式動画はこちらです。

 さて、日本はどうするのか。パラリンピックこそメッセージがとても大事。2012年のパラリンピックの時期にちょうどイギリスにいたのですが、障害者がTVキャスターやプレゼンターとして登場、現場をレポートし、会場の応援もすごく盛り上がっていました。多様性の考え方がまだ身近でない日本の、パラの式典で、Spasticus Autisticusを合唱するようなリアル感までは期待しませんが、少なくとも参加者が共感できるものが示せればよいと思います。

 MICEの話から飛んでしまいましたが、どうかパラリンピックの閉会式は日本に行ってみたいな、と思えるようなものにしてほしいものです。

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