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Young Girls Are Coming To the Canyon

Young Girls Are Coming To the Canyon (Andy)

Jerxブログ(※1)の著者AndyによるWWC(White Wand Chronicles)のvol.2にあたる本で、2021年秋から2023年春までのサポーターに配布されました。前作のWWC vol.1同様に一冊の中で一貫したテーマはなく、基本的には単独の作品が一冊にまとめられています。一貫したテーマはないものの、E.D.A.S(※2)と名付けられたフレームワークを用いた作品がいくつか紹介されていたり、何回もの実験を通じて得られた結果を反映させて作られた作品が数種類紹介されていたりと、前作と比べ、まとまりがあり読みやすい構成でした。Andyの作品は演出そのものに価値があるような作品が多いため、細かい現象説明は省きますが、特にお気に入りの作品を記録としていくつか紹介します。

まずはThe Chance Extractorから。
現象としては、ランダムに作られたポーカーハンドの予言のような現象ですが、特筆すべきはその演出です。原案の手品的な演者都合の手続きを見事に演出で強めています。
この作品のようにセルフワーキングにありがちな謎の手続きを強みに変える演出を考えられるようになりたいと思いました。ちなみに原案者は数学教授だそうで、どうしてそうなるのかはよく分かりませんが、なぜかそうなるので原案からすごい作品です。

次にMemento。
この作品よりも前の章でカードのコーナーを破る系手品の実験やその実験を踏まえて作られたいくつかの作品が紹介されています。この作品もその流れの中で紹介されています。友人と一緒に屋外に出て、カードを破いて自由に一片だけ残し、残りは破棄しますが、演者の自宅にその一片と完全に一致する欠けたカードがあるというような現象です。これはあくまでも手品的に見た現象説明で、体験する観客からするとマジックとは思えないような体験になると思います。方法論も応用しがいのありそうな方法で、色々と応用を考えてみたいと思った作品です。

最後はUse Your Mind to See the Sudden Light。
マジック要素はほとんどないのですが、観客の体験に重きを置いた作品で、素晴らしい以外の感想がないくらい良かったです。手品的なところで言うと、作品の一部でPaul Harrisのアイデアが使われているのですが、この原理はこの作品のためにあったのではないかと思えるくらいいい使い方でした。こんなにシンプルな原理を発見したHarrisももちろん凄いのですが、これを適用させようと思ったAndy凄い。

その他にもAndy大好きO.O.T.Wの新しいハンドリングや、ルービックキューブの作品なども収録されています。今回収録の作品は特に自宅に友人などを招いて行うことを想定した作品が多く(トイレで行うマジックなんていうもあります)、同じ文脈で行うには難しい作品も多かったのですが、トリックをどのように観客の体験として昇華するかは非常に参考になる箇所が多く、方法論の面でも興味深いものがいくつもありました。

そんなわけでYoung Girls Are Coming To the Canyonの記録でした。もう手に入らない本の記録となり心苦しくはあるのですが、気になる方は持っている人に借りて読んでみてください。

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