Twitterはなぜ赤字だったのか、イーロン・マスクはこれから何を目指すのか
Twitterの買収により大量のレイオフが発生しており、波紋を広げています。
文字が好きな自分にとっては、愛着もある大好きなSNSですし、GoogleとTwitterは人材交流が盛んでもあり、他人事ではないというのが正直なところです。
コンテンツモデレーションやスパムに関しては(元Google→Twitterの)長山さんがプロ中のプロなので、こちらのブログが非常に参考になったのですが、
僕の方は広告の観点から、なぜTwitterが赤字で、ここからTwitterがどこに向かっていくか、という点について私見を述べます。
そもそもの前提
我々は思いつきでTwitterを買うことを決め、一転してそれを拒否し、訴訟されかけて買収に応じた男の戦略について話し合っています。
今起きていることはジョークです。イーロン・マスクはよく知らないものを売り買いしている金持ちでしかありません。
今年に入ってから彼は奇矯な言動を繰り返しています。
中国と接近してみたり、ロシアと接近してみたり、かつてのような「天才起業家」から「お騒がせビリオネア」と化しています。
彼は短期的には収益改善を目指そうとしているように見えます。長期的には再上場を目指すのでしょう。
確かに、ジョークで6.4兆円を払い、買収した企業が一日400万ドルの赤字を出していることに気がついたとすれば、何としても黒字にしたいと考えるのは当然の思考でしょう。
広告プラットフォームとしてのTwitter
なぜTwitterは、赤字なのでしょうか。TwitterはGoogleやYouTube、Facebookほど大きなSNSではありません。
とはいえ、TwitterはWebのPVで見れば、Instagram単体と同等かやや上回る訪問者とページビューがありそうです(similarwebなど参照)
だいたいMeta全体(facebook + Instagram + whatsapp)の5分の1程度でしょう。多分……。
ただ、収益性でみるとその差は圧倒的です。(2021年の数値)
Twitter 50億ドル
Google 2570億ドル
Meta 1170億ドル
なぜここまでTwitterが低収益なのか。広告収益が低いからです。ではなぜ広告が売れないのか。
1.アプリが弱い
一つは、Webは多くても、アプリのアクティブユーザーが少ないことです。
Twitterは、当初APIを通じて様々なアプリから利用できました。これは、ジャック・ドーシーが盛んに言う「プロトコル」的な方向性なのかもしれません。
APIを通じて配信されたサードパーティのアプリの広告を、プラットフォームがコントロールするのは至難の業です。
User Streams APIの廃止がわずか4年前。アプリのユーザー数を伸びていないのは、長らくサードパーティ文化を排除できなかったからではないでしょうか。
Wikipediaなのでソースがバラバラですが、Twitterはアクティブユーザー数ではInstagramどころかRedditやSnapchatにすら負けています。
2.広告の精度が低い
広告に使えるデータ量の質と量の差も大きなポイントでしょう。
Googleの検索で出てくる広告は、検索したワードに対して関連する広告を返します。例えば、「冷蔵庫」と検索している人に対して冷蔵庫のショッピング広告を出すことが出来る。実は、すごいことです。
冷蔵庫を必要とするタイミングは、人生でそれほど多くありません。でもGoogleなら、顧客が必要としている瞬間に広告を出せる。ということは、非常に買われる確率が高くなるということです。
だから、広告主も高い金額を払って広告を出そうとします。裏側は色々複雑な仕組みがあるんですが、かいつまんで言うとそういうことです。ですから、高い広告では、1クリックあたり1000円を超えることもあります。
では、metaはどうか。facebookの強みは、圧倒的な個人情報の保有量です。facebookは年齢性別だけではなく出身大学、勤務先、居住地など様々な情報を保有していて、それに基づいたターゲティング(転職や婚活などは典型例です)ができます。
コンテンツ審査はコストセンター(だけど)
Twitterにとってスパムや差別的コンテンツは常に頭の痛い問題でした。何がスパムであるのか、何が規約に違反しているのかを決定することは、容易ではありません。
ユーザーをBANしたり凍結行為は、当然ユーザー側から反発を食らう可能性もあります。フラグを立てたり、ある程度自動化出来るにせよ、人力も必ず必要になります。
重要なことは、基本的にこれらの行為は収益を生むプロフィットセンターではなく、コストセンターであるということです。
確かに、イーロン・マスクがこれらの部門をカットしようとすることは、短期的に収益性を改善する上で合理的に見えます。
しかし、イーロン・マスクが理解していないことがあります。
スパムが多かったり、人種差別主義者が跳梁跋扈したり、公式アカウントが悪意によって攻撃されるようなプラットフォームでは、広告のブランド価値は著しく毀損されます。
イーロン・マスクは左派の活動家によってTwitterの広告収入が落ち込んでいると主張していますが、問題は「活動家」ではなく不安定な言動を繰り返すCEOにあります。
信頼性と継続性は広告を出す側にとって極めて重要であり、それが揺らいでいる以上、多くの企業が広告の出向を差し止めるのは至極当然です。
認証バッジは、信頼性を担保するために重要な要素の一つでした。今やそれは月8ドル払えば誰でも買えるものになり、Twitterで広告主が信頼性を担保する手段は無くなりました。
非上場企業であるからと言って、好き放題出来るわけではない
イーロン・マスクはSEC(証券取引委員会)を憎んでいます。テスラの非上場化を目指したことでも明らかです。
ただし、Twitterが非上場になり、「言論の自由」を目指すとしても、すべてCEOの自由になるわけではありませんし、責任から完全に逃れることもできません。
この数年SNSに対する社会的な目は厳しくなり、ザッカーバーグは公聴会で徹底的な批判を受けました。
仮に、トランプ前大統領が気まぐれにTwitterに復帰し、再び議事堂襲撃のような国家的危機に発展したとき、Twitterとイーロン・マスクに向けられる目はこれまでとは比較にならないほどに厳しくなるでしょう。
Twitterは米国だけではなくGDPRなど欧州の法と秩序に従う必要があります。これも厄介な仕事です。
「woke(ポリコレ)や左翼のアクティビストに支配された」とイーロン・マスクは考えているようですが、仮にイーロン・マスクが推し進める「言論の自由」を推進すれば、それはTwitterにとって大きな法務上のリスクとなるでしょう。
イーロン・マスクは何をしようとしているのか
彼はTwitterを「スーパーアプリ」にしたいようです。
スーパーアプリとは中国におけるWechatのような、「その一つでがすべてのニーズに応えられるアプリ」のことを指します。そんなものが金盾の外で成立するのかはよくわかりませんが、とにかくそう言っています。
一例として、彼はTwitter上で、YouTubeのようなクリエイターが収益化する手段を提供しようとしています。
長いテキストを貼り付けられるようにしたり(ブログの代替)、長い動画をTwitterに投稿して収益化する(YouTubeに対抗)、ということですね。
確かに、Twitterのこれまでの戦略は不可解な部分も多々あります。短時間動画のVineを買収しては潰し、ニュースレターサービスのRevueを買ったが活用している印象はありません。
イーロン・マスクはvineを復活させたがっている(5年前にクローズしたサービスのコードを動かす労力は想像したくありませんが)ようです。
ただ、50%の社員をレイオフしたまま残りの50%、しかもおそらく福利厚生が悪化するであろうTwitterに、優秀なSWEがどの程度残るのか、新しく採用できるのかはよくわかりません。
Twitterはやや中途半端
以前こういうツイートがありました。
近年のプラットフォームは、フォロー&フォロワーを重視せず、プラットフォーム側で最適化しています。
Twitterのタイムラインもフォローしているアカウントのつぶやきが減り、人気アカウントのツイートやおすすめのツイートが表示されるようになりましたが、これもその一つでしょう。
Twitterのフォロー/フォロワーという設計、タイムラインを中心にした設計自体が、プラットフォーム側のコントロールしたいユーザー体験と乖離しているのかもしれません。
悪意のあるポストや危険なポストなどをモデレーションするには、プラットフォーム側がコントロール出来る要素が多いほうが有利です。その意味で、Twitterはより「分散的」なプラットフォームと言えます。
もう一つ。Twitterではリプライも通常のつぶやきも、基本的は同じ「つぶやき」として処理されます。
Instagramのストーリーのようなものであれば、リアクションは非公開のメッセージであり、Twitterのリプライのように公開で多くの聴衆の目にさらされることはありません。
コンテンツプラットフォームを目指すのか、メッセージアプリやコミュニケーションアプリを目指すのか、という点で、Twitterは良く言えば独特、悪く言えば中途半端な立ち位置にいます。
あとがき
今回レイオフされたTwitter社員のことを考えると胸が痛みます。更に、Twitter上で、#OneTeamなどのハッシュタグが攻撃されているようです。誤読や誹謗中傷も多く、読んでいてつらい気持ちになります。
同時に、このような悪意や誤読は、元からTwitterに存在していたものであり、Twitter社が作ってきたプロダクトが生み出したものである以上、Eat your own dogfood(自分の作ったドッグフードを食べよ)という格言を思い出さざるを得ないのです。
最後に。私はバカで、彼は気まぐれに見えるだけの天才で、Twitter社は世界一の時価総額を持つテックカンパニーとして再上場するのかもしれません。
そうでないとすれば、Twitterはパブリックでオープンなプラットフォームとしての歴史的使命を終え、気まぐれな金持ちの持ち物となり、長期的な衰退プロセスに入ってゆっくりと死を迎えていくのでしょう。
励みになります!これからも頑張ります。