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打点バリエーションから見る得点創出力

打率・本塁打・打点は古くから打撃三部門とされ、この三部門いずれの数値も高めることは非常に価値があることだと認識されてきました。三部門全てのタイトルを獲得することを「三冠王」と称し、NPBでは過去に7人しか達成していない非常に難易度が高い記録ということから、それぞれを両立する難易度や価値が良く分かると思います。

しかし近年ではセイバーメトリクスの流行から、打者の実力を示しかつ得点との相関が強いOPSや、wOBA・wRC+といった指標が好んで使われる傾向にあります。ですので、得点との相関の弱さや打者の実力を適切に測れないとの理由から、旧来の打撃三部門の存在感が薄くなっていることは間違いないでしょう。

そのような流れが球界を支配しつつある中ですが、本稿ではあえて打撃三部門の中の一つである打点という指標にフォーカスし、打点バリエーションという形でその中身を分解していきたいと思います。

そして、どのように打点を稼いだのかを明らかにすることで、打者ごとの傾向であったり、得点創出能力をつかんでいこうと思います。

1.打点バリエーションとは

まず打点バリエーションという聞きなれない言葉について、簡単な説明を行っていこうと思います。

ざっくり説明すると、打点をどのようにして稼いだのかを分類することを指します。3点本塁打を放つと本塁打の打点が3となりますし、2点二塁打を放つと二塁打の打点が2となります。打点が記録された打席について、その打席の結果と打点数を集積していったものを打点バリエーションと呼びたいと思います。言葉で説明するのも中々難しいので、私が以前下記のようにツイートしたものを見ると、何となくお分かりになるかと思います。

記録として打点が付くのが、本塁打・三塁打・二塁打・単打・犠打飛・四死球・内野ゴロ・野選・失策・妨害の全10種類となりますが、妨害で打点が付いた選手は今回の対象選手からは見られなかったので、全9種類から集計を行いました。

2.打点バリエーションごと打者分類

では打者ごとに打点バリエーションを確認していきたいと思いますが、まずここで対象とする選手は2015年~2019年の5年間の打点数両リーグ上位20位までの選手としたいと思います。

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とすると対象選手は上記表の通りとなります。1位は2018年に127打点を稼ぎ出すなど、5年連続で80打点以上を記録し、安定して打点を稼ぎ出す「RBIマシーン」の浅村栄斗となっています。以下に続いていくのは、山田哲人・中田翔・筒香嘉智・中村剛也となっていきますが、大阪桐蔭勢が3名上位に顔を出しているのは偶然でしょうか‥。その他にランクインしている選手を見ても、年間20本以上は本塁打を期待できるような選手が多く、当然ではありますが本塁打との相関の強さを窺わせます。

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以上の対象選手について、5年間で挙げた打点を本塁打と本塁打以外に分類し、グラフ化してみました。平均より右側に分布しているのが打点における本塁打の割合の高い選手、左側に分布しているのが打点における本塁打の割合の低い選手という見方になります。本塁打の割合の高い選手は11名、逆に低い選手は9名とどちらにも極端に振れない分布となっていることが分かります。

※ここでの平均は打点ランキングトップ20の選手の平均のため、実際の平均は本塁打の割合が低くなり、もう少し左に位置するものと思われる。

本塁打の割合の高い選手について確認していくと、バレンティン・デスパイネといった外国人スラッガーや山川穂高・筒香嘉智といった日本人スラッガーという本塁打のイメージの強い選手が多くいます。本塁打の割合の高い選手を挙げているので、当然ですが‥。過去5年の打点ランキングでも、上位10名中7名が本塁打の割合の高い選手となっており、本塁打が打点を稼ぐ上で非常に有効であることが分かります。

続いて本塁打の割合の低い選手について確認していくと、鈴木誠也・坂本勇人・丸佳浩らスラッガータイプというよりも、3割20本~30本といったバランスの取れた打撃成績を残すようなイメージの選手が多くいます。本塁打の割合が低いためか、過去5年の打点ランキングで上位に進出している選手は多くありませんが、ランキング1位の浅村と3位の中田がこちらに分類されるのは面白いところです。本塁打に頼らずとも、走者を置いた際にきっちりケース打撃が出来れば打点数は伸ばせるということでしょうか。

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ここまで本塁打とそれ以外という分類で見てきましたが、ここからは本塁打以外の部分のもう少し細かい割合について、一覧表を用いて確認していきます。

基本的には本塁打以外の部分の割合は、当然ながら本塁打の割合が低いほど高く出る傾向となっています。そんな傾向を見せる中でも単打や安打以外による打点は、打点が稼ぎづらい打席結果であるため、掘り下げてみると面白そうです。

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まず単打から確認してみると、本塁打の割合の低い選手が上位に名を連ねますが、本塁打の割合の高い選手の中で上位の選手はウィーラー・バレンティン・デスパイネとなっています。特にバレンティンやデスパイネは本塁打の割合が高いため、1点欲しいような場面では軽打に徹する傾向があるのかもしれません。

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安打以外も同様に本塁打の割合が低い選手が上位を占めていますが、本塁打の割合が高い選手の中で上記の選手というと、ウィーラー・バレンティン・鈴木誠也となっています。単打の時とそうは大きく変わらない並びですが、ウィーラーが単打と同様に安打以外でもトップの割合の高さで、本塁打に依存しない打点バリエーションの広さが窺えます。その割に打点数が伸びていないのは、フルシーズン稼働が出来ていないこと、本塁打数が然程多くないこと、単に得点圏に弱いが故でしょうか。

ウィーラーと同様に、バレンティンも単打と安打以外のどちらでも上位にランクインしています。本塁打によって一挙に打点の量産が可能で、かつ時には軽打も出来るような柔らかさも持ち合わせていると言えましょう。そのために坂口智隆・青木宣親・山田哲人の並びが機能し、前の打者の出塁の多かった2018年には131もの打点を量産出来たのだと推測されます。2015年に故障の影響でシーズンをほぼ棒に振ることがなければ、おそらくバレンティンが打点ランキング1位となっていたことでしょう。

まとめ

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ここまでをまとめると、打点バリエーションで打者を分類するならば、打点に対する本塁打の割合の大小と、単打や安打以外といった軽打の割合の大小で分類することが出来るように見えます。それに基づいて、20名の打者を平均より上か下かで分類すると上記表のようになりますが、本塁打の割合が低い選手はその殆どが軽打の割合が高い傾向にあることから、本塁打の割合が低い選手を分類することはあまり意味がなさそうです。(唯一本塁打・軽打の両者の割合の低い鈴木誠也も平均から少し小さいだけ)

ですので、実質的には本塁打の割合と軽打の割合が低いところを除いた3つに分類することが出来るでしょう。その中でも、本塁打の割合高+軽打の割合高の選手が、自身でも得点を創出することができ、かつ周囲の打者の出塁を潰すことなく効率的に生かせるという点から、この3つの分類では得点創出能力の高い選手と言えるのではないでしょうか。

ただ一点気を付けたいのが、得点創出能力は高いものの、打点は周囲の状況に左右されやすい指標なため、必ずしも打点の多さには結びつかないことです。仮に各打者に同じシチュエーションを用意して、一番打点を稼げるのは、3つの分類の中では本塁打の割合高+軽打の割合高の分類ではないかということが言いたいわけです。

その他の2つの分類からも、数名打点王を獲得する選手は現れているため、打点という数値では得点創出能力を完全に測るのは困難ということが改めて分かります。

3.打点バリエーションの変化

このような打者による打点バリエーションは、基本的に毎年同様の傾向を見せますが、中には打点バリエーションに変化のあった選手も存在します。ここでは、年度間で大きな変化を見せた選手を特集していきたいと思います。

対象は年度間で打点に占める本塁打の割合が20%以上変化している場合としています。

①2018年→2019年 中村剛也

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2019年に123打点を稼ぎ、4年ぶりとなる打点王に輝いた中村剛也ですが、前年は28本塁打で74打点であったのが、30本塁打で123打点と本塁打の数は大きく変化はないものの打点は大幅に増加しています。

2019年の打点バリエーションを見ると、打点に対する本塁打の占める割合は大きく減少する一方で、二塁打や単打で走者を返す割合が非常に増えています。内野ゴロで走者を返すケースも増加しており、軽打の意識が芽生えたということなのでしょう。

4年前に打点王に輝いた時と比較しても、打点バリエーションは大きく変化しており、4年前も124打点を稼ぎ出しながらも、2018年と同じような本塁打偏重の打点バリエーションだったのが、2019年は本塁打以外の打点の割合が2015年と比較しても14.2%増加していることが分かります。

2019年の中村は、36歳ながら常に本塁打を狙うのではなく、状況に応じた打撃が出来るようになったというような新たな進化を見せたことが、ここから良く分かるのではないでしょうか。

②2017年→2018年 丸佳浩

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2017年は23本塁打で92打点を稼ぎましたが、翌2018年には39本塁打と大きく本塁打数を伸ばし、25%弱も本塁打による打点を増やしたのが丸佳浩です。本塁打数が伸びたにも関わらず、打点数が5打点しか増えなかったことが割合増の大きな要因なのでしょう。

一気に本塁打偏重の打点バリエーションとなりましたが、安打以外のバリエーションは失っておらず、内野ゴロによる打点で前年を上回る6.2%を稼ぎ出しているのが大きな特徴です。ですので、決して常に長打を狙うような意識というよりは状況に応じて1点を奪いにいく軽打の意識も捨てていなかったということが窺えましょう。

③2016年→2017年 柳田悠岐

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トリプル3を達成した翌年、徹底的なマークと李大浩の退団の影響もあってか本塁打数の減少とともに打点に占める本塁打の割合も大きく減少しましたが、翌年はデスパイネの加入やフライを上げることを意識した結果、再び30本塁打に到達し打点に占める本塁打の割合も大きく伸ばしました。

打点に占める本塁打の割合こそ増えたものの、単打の割合も高くフライを上げることを意識したためか犠飛の割合も大幅に増えており、こちらも前述の丸と同様の意識の傾向が見て取れます。

④2016年→2017年 秋山翔吾

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2016年→2017年で本塁打数を伸ばした柳田悠岐と同期間に、秋山翔吾も大きく本塁打数を伸ばし、それとともに打点に占める本塁打の割合も大幅に増加しました。

秋山も丸や柳田と同様に、長打だけでなく単打や安打以外の打点バリエーションもしっかり保持しており、軽打の意識も持ちながら長打も増やしていることが分かります。3人とも本塁打を大幅に増やしたシーズンで打率.300以上を記録していることからも、それは明らかでしょう。

まとめ

打点バリエーションが、年度間で大きな変化のあった選手を特集しましたが、元々アベレージタイプ寄りの選手が、パワーを付けて本塁打を増やすことで打点に占める本塁打の割合を増やす例が多いようです。

その一方で、中々本塁打の割合を大幅に減らすことに成功した選手が中村くらいなため、一定の打点数を維持しながら本塁打の割合を減らすことは難しいのかもしれません。それだけに、中村のスタイルチェンジの成功は偉大な打者の証とも取れるように思います。

4.打線における打点バリエーション

ここまで打者ごとの打点バリエーションを確認していきましたが、打線という形で見るとどうなのでしょうか?ちょうど直近5年で歴代でも傑出した得点力を誇ったチームが出現したため、そのチームの打線の打点バリエーションを分析することで、どのような打点バリエーションを持つ打者を並べることが高得点力を持つには大事なのかを確認していきます。

ここでは、NPB史上でも屈指の得点力を誇った2018年西武と、その西武を上回るチーム本塁打数をマークしながら得点力では大きな差をつけられた2018年ソフトバンクを対比しながら、進めていきます。

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西武とソフトバンク両チームの打点バリエーションを並べてみると、本塁打の割合は西武の43.9%に対してソフトバンクは47.8%とチームトータルでは割合に大した差がないことが分かります。安打以外の打点の割合では、西武の9.1%に対してソフトバンクは11.2%とむしろ高い割合となっています。ですので、チーム単位の打点バリエーションではその差を見つけることが出来ません

ただチーム内で打点を多く稼いでいる打者を見てみると、西武は浅村・秋山・森・外崎と60打点以上を稼ぐ6名中4名の本塁打の割合は50%以下なのに対し、ソフトバンクは上位5名がいずれも本塁打の割合が50%を超えています西武にも山川や中村といった本塁打偏重の打者はいたものの、それが完全なチームの得点源となりきらなかったのが様々な得点バリエーションを生み、傑出した得点力をもたらす一因となったのかもしれません。一方、ソフトバンクはチームの得点源となるべき打者が本塁打偏重となってしまったことが、バリエーションのなさに繋がり、得点が伸びなかった一因となったのかもしれません。

また、ザグロさん(@NPBzagro)のブログの記事にあるように、ソフトバンクは非効率的な打順も影響して、本塁打の期待値が下がってしまったことも得点数が伸びなかった要因なのでしょう。

以上より、2004年に「史上最強打線」とも称された巨人が、年間259本塁打を放ちながら738得点にとどまったように、必ずしも本塁打を増やせば高得点力を得られるわけでもないことが分かります。特に得点源となる選手は本塁打に頼らないバリエーションを持っておく必要があると言えるのではないでしょうか。

総括すると、本塁打の割合高+軽打の割合高の選手はそういないため、本塁打の割合高+軽打の割合低の選手と、本塁打の割合低+軽打の割合高の選手を組み合わせることで、相乗効果のようにして様々な得点パターンが生まれ、チーム全体の得点力が高まるのでしょう。

5.まとめ

打点バリエーションを見てきた中で、確認できたこととしては以下の通りとなるでしょう。

①打者を打点バリエーションで分類すると、本塁打の割合と軽打の割合で3つに分類される
②その分類の中では、本塁打の割合高+軽打の割合高の打者が最も得点創出能力の高い打者と言える
③打点バリエーションにおいて、本塁打の割合を増やしながら打点も増やすことは容易だが、減らしながら打点を維持or増加させるのは難易度が高い
④打線においては、本塁打の割合高+軽打の割合低の選手と本塁打の割合低+軽打の割合高の選手を組み合わせることで、得点力を最大化できる

まだまだ不完全な部分も多いですが、これが現時点での打点バリエーションから分かることとなります。本塁打を打ち多くの打点を稼ぎながらも、軽打で1点を奪いに行ける打撃のできる選手が理想的ですが、そのような選手は決して多くありません。ですので、打線としては様々な打点バリエーションを持つ選手を掛け合わせることで、得点創出能力の最大化を図るのが現実的なのでしょう。

今回は打点を多く稼ぐ選手に限定された感があったため、今後はもう少し幅を広げて見ていくことで、打点バリエーションの更なる追求を進めていきたいと思います。

#野球 #プロ野球 #打点 #バリエーション

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