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陸前放浪記〜Reborn Art Festival篇②

前回に引き続き「Reborn Art Festival」の後篇です。ここでは前回は会場でなかった女川エリアと、石巻市市街地エリアの2箇所の展示の様子を振り返っていきたいと思います。

女川エリア

前篇の牡鹿半島の各エリアを回ったあと、そのまま女川に向かいました。
「震災遺構篇」でも取り上げた女川交番を取り囲む公園の敷地内にオノヨーコ「Wish Tree」がありました。

女川駅前には会田誠「考えない人」

しかし、何でこの作品だったのでしょうか。

考えてみてもよく分かりませんでした。いや、細かいことは考えたらいけないのかもしれません。

港のそばに仮設のテントが立っていました。

中にはスクリーンがあって映像が流れています。
こちらが加藤翼「Surface」

今回は海中に沈んでいた車を引っ張って引き揚げるという作品でした。

引き揚げられた車は御前浜という場所に設置されているという情報を事前に得ていたので行ってみました。海岸線に沿って蛇行する道路を進んで15分ほどで到着。

かつては鮭やマスのふ化場があったところなんだそうですが、津波の被害を受けて住民は高台に移動、今でもほとんど手つかずの状態で残っています。中心部とはまったく違う景色に驚かずにはいられませんでした。

後々になってこの作品について加藤翼さんが語ったインタビューがYahooニュースに載っていました。それによると引き揚げたあとに車の持ち主が判明したのだそう(油を含んだヘドロが車内に溜まっていて、そのおかげでダッシュボードに水が入るのを防いでいて、車検証がきれいな形で出てきたのだとか)。持ち主とは実際に対面して話もされたそうで、「率直に複雑な感じ」としつつも「芸術祭に多くの人が来て震災について考えるきっかけになるのなら使ってください」と許可を得たそうです。
まあ、10年前の大変な思いをしたことをひょんなことから掘り返されて、また注目を集めることになって、車の所有者の方が快く思わないのも当然だと思います。が、それを越えて許可してくださったことに、一来場者として心より感謝したいです。

石巻市街地エリア

さて、いよいよ最後のエリアです。
気合いを入れるために石巻漁港のほうに足を伸ばしました。

斎太郎食堂さんで新鮮な魚介がたっぷり乗った海鮮丼をいただきましたよ。

さて、展示回り、スタートです。
まずはインフォメーションセンターのある旧観慶丸商店へ。

1930年、昭和のはじめに建てられた建物です。
相変わらずレトロで格好いいですよね。

チェックインを済ませてまずは予約していた作品を見るために会場へ向かいます。
パンフレットには「旧千人風呂」とありますが、千人風呂は震災後に被災者やボランティアに入浴サービスを提供していたところで、そのうちコミュニティスペースの意味合いも強くなり入浴サービスが終わったあとも建物の一角にスペースを作っていたそうです。

今は映画と演劇が楽しめる複合エンターテイメント施設へと転換が進められていて、私が行ったときにはアーティストの方が壁画を描かれていました。
入口から入ると建物の内側に駐車場があって周囲を建物に囲まれているのですが、その建物の壁のひとつに片山真理「ballet #002」が。

予約していた時間までまだ少しあったので先にHouxo Que「泉」を拝見。入口で長靴に履き替えて展示室へと進みます。

ディスプレイの前を流れ落ちる水は滝のよう。
そして足元には水が、しかも結構な深さ。

驚くのはここが建物の2階であるということです。よくここまで出来たなあ〜無謀なくらいのトライに圧倒されました。

さて、予約の時間になったので会場となる部屋へ向かいます。
ここで上演されているのは大友良英「バラ色の人生」です。

ステージに所狭しと並べられた家電たち。レトロなものもたくさんあります。スイッチが入って動くときのノイズが重なり合ってオーケストラのような合奏が響きます。
が、途中から私が気になったのは、舞台の脇でスイッチを操作する黒子の存在です。

舞台の家電たちを動かすために終始せっせとスイッチを入れたり切ったり。時折ついしげしげとその動きっぷりを観察してしまいました。
演奏終了後に写真撮影タイムがあって、上の舞台の画像はそのときに撮ったものですが、ついでスイッチも撮ってしまいました。この数に圧倒されてしまいます。

ふたたび旧観慶丸商店のインフォメーションセンターに戻ってきました。
ショーウィンドウには髙橋匡太「光の贈り物」のイメージデッサンが。

会いたい人への想いを込めた色で「石ノ森萬画館」を照らすという作品です。
インフォメーションセンター内ではいろんな人から届けられたメッセージとその色で塗られたイメージ図がずらりと並んでいました。

このなかから果たして今日はどれが選ばれるのでしょうか。

2階には廣瀬智央さんのミントをテーマにした作品がありました。

ミントと一言で言ってもいろんな種類があって、それによって香りも全然違うのには驚きました。
空間全体にもミントの香りが漂っていてとても心地良かったです。
ミントを浸したミント水もいただきました。さっぱりとしていていいですね。

さて、もうひとつの予約作品へと向かいます。場所は日和山公園。はじめて来ましたが、道が細く急坂もあってなかなか往来が大変だなと。

会場は閉店したレストハウス。
営業していた当時を思わせる備品が雑然と残されたままの空間でした。

ここで展示されていたのは雨宮庸介「石巻13分」。ここでいったいどんな作品が。イスに座って待っていると、静かに作品がはじまりました。

放置してあるのかと思っていた木材に文字が投影され、壁に映像が映し出されて作品は進んでいきます。

亡くなった作家の母の文字をAIに認識させて「石巻」という文字を生成させます。そしてその文字を作家の掌に刺青として入れ、その様子を作家仲間に撮ってもらい、というように話は進んでいきます。

そしてクライマックス。
閉まっていたブラインドの羽根が動いたかと思えば、自動でブラインドが巻き上げられていきます。

窓の向こうに広がる石巻の海。
まさかこんな展開になるとは予想もしておらず、しばらく席から立ち上がれずにいました。
呆然、というのに近いでしょうか。
ものすごいスペクタクルを見せられたような感覚になりました。
今回のRebornで一二を争う素晴らしさでした。

レストハウスを出たあとはもちろんしばらく日和山から石巻の海を眺めていました。
あの日、多くの人がこの場所で絶望とともに見下ろした海。
この日はただ穏やかな気配が広がっていました。
2年前網地島に向かうために乗ったフェリー乗り場のあたりも見ることができて懐かしくなりました。

公園には昭和の雰囲気を残した売店が営業していて、何かその様子がいいなあと思ってしまいました。

ふたたび市街地に戻って石巻駅のほうに向かいます。
石巻市ささえあいセンターには2019年に荻浜小学校で展示されていた増田セバスチャン「Microcosmos -Melody-」が常設で展示されていました。

背後の景色から分かる通り新型コロナウィルスワクチンの接種会場になっていました。さすがに場違いなのでそそくさと出てきましたが、ガイドブックに現在非公開と記載されているのを後になって(というかこれを打っている今)気づきました。ごめんなさい。
そういえば近くの石巻市立病院にはシンディ・ローパーが寄贈した被災ピアノが展示されていたなあと思い出して見に行きたくなりましたが、そちらはさすがに遠慮しました。調べていないのですがまだ展示されているのかしら。

さて、そろそろお昼です。
せっかく石巻に来たのだから石巻焼きそばが食べたい。ということで、いしのまき元気いちばの2階にあるフードコートでいただきました。

天気も良かったから屋外のテーブルでいただきました。
旧北上川を挟んだ対岸には石ノ森萬画館がよく見えましたよ。

お腹を満たしたところで少し離れた会場へ徒歩で向かいます。たどり着いたのはこちらの建物。

2階にサウナ石巻、1階につるの湯と、ふたつの入浴施設が入っています。ここにも津波が押し寄せて
サウナ石巻では、まず片山真理さん。

浴室には、西尾康之「磔刑」「唐櫃」

なんとなく雰囲気が怖くてそそくさと出てしまいました。

そしてもうひとつ、撮影禁止でしたが、マユンキキ「SIKNU シクヌ」(正式には「ク」は小文字)がありました。タイトルはアイヌの言葉で「生きる・死なずに済む・命を取り止める・生き返る」というような意味があるそうです。両親がアイヌの人ということで、アイヌという自らのルーツをテーマにしていて、興味はあったのですが、展示の点数が膨大でじっくり拝見できなかったのが残念。
また、謝辞のクレジットのなかに、知り合いの作家の名前があって懐かしくなりました。北海道に拠点を移してからは疎遠になってしまったけれど、元気そうで嬉しくなりました。

同じ建物に入っているもうひとつの入浴施設ではMES「サイ」が展示されていました。

展示は脱衣所からはじまっていたのですが、浴室に足を踏み入れてビックリしました。

単管が組まれていて、浴室をぐるりと回ることができます。ふたつの浴室を隔てる壁も乗り越えることができました。
ちょうど壁の真上にはマイクブースがありました。

サイにはいろんな意味を重ねているようですが、そのうちのひとつに「sigh=ため息を吐く」があるのですが、「はぁ」というため息を録音するよう指示があったので私も参加しました。
浴室には誰かの「はぁ」というため息が絶えず響き渡っていて何とも不思議な空間になっていました。

今度は車に乗って、中心部からやや離れた場所にあるプレナミヤギというレジャー施設に向かいました。

ボーリング場とスケート場がある施設なのですが、スケート場はまだ営業時期ではないようで、そこが会場になっていました。

広大な空間に2面の大きなスクリーンを立てて展示されていたのがバーバラ・ヴァーグナー&ベンジャミン・デ・ブルカ「Swinguerra」

ブラジルの北部で活動する3組のダンスグループをフィーチャーした作品。若い男女がとにかく踊りまくります。自分たちの置かれた環境を打破しようとするかのような力強さが格好よくて見惚れてしまいました。

さて、日没まで時間があるのでご飯を食べることにします。選んだお店は「IRORI石巻」という喫茶店。インフォメーションから歩いてすぐのところにあります。

本当はRebornとコラボしたメニューをいただくつもりでいたのですが、どうも間違えて注文してしまったようで、一般メニューの鹿肉のカレーをいただきました。

鹿肉は臭みもなく大変美味でした。

そして石ノ森萬画館へ向かいます。
河岸はまだまだ工事が進められていました。

徐々に辺りが暗くなっていき、ライトの明かりが分かるようになっていきました。

赤、そしてピンク。
一色かと思えば2色で交互に照らしていました。

この日選ばれたメッセージはこちらでした。

せっかくなので一部抜粋して転載します。

私がそろそろ50歳を迎えようとしていた昨年、体調を崩した父の手伝いで畑仕事を始めました。(中略)広い畑はもともと祖父母がタバコの葉を育てていました。夜明け前から日暮れまで、足を引きずりながらもタバコの収穫をしていた祖父、祖母の記憶が思い出されます。
今の野菜畑で過ごしているといつの間にか時間がたっていて、ゆっくり沈んでいく夕陽を見ることができます。この夕陽を見ながら、亡き祖父母に「今日も一日見守っていてくれてありがとう」と伝えたくなります。祖父母に「尊敬と感謝」の思いを込めて、石巻の夕陽の色を送ります。

メッセージを読んでから見ると、建物を照らす赤い色がまた違ったように見えてきますよね。心が満たされるような思いがしました。

さて、今回のReborn Art Festivalは2021年の秋会期のほか、来年2022年の春会期も開催される予定になっています。現時点ではどんな内容になるかは不明ですが、開催されるのであればやっぱり参加したいと思います。

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