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第3回北陸ジュニア竜王戦 昇竜位の観戦記

2024年の9月16日に開催された北陸ジュニア竜王戦。
今回は来年の竜王位を目指す昇竜クラスの決勝戦の観戦記を執筆いたします。
思えばこの昇竜クラスの観戦記を書くのも3回目。
昨年の観戦記は大会運営の公式Xに掲載されてます
毎年思うんだけど昇竜クラスの決勝戦にまで勝ち上がるような子は、きっと来年には竜王挑戦クラスに出場しても大丈夫な気がするんよね。
昇竜の文字通りにメキメキと強くなっていくと思う。
と言うか、大会での対戦過程で実戦を通じて強くなってると思う。
それくらい大会での真剣勝負って経験値高いんよね。

ちなみに竜王挑戦クラスの決勝戦の観戦記はこちら
金沢大学将棋部の番井さんが執筆されてます。


さて本局は福井県代表の澤田歩さん(中3)が先手、石川県代表の堀川真さん(小3)が後手となりました。
相掛かりの序盤戦から定跡通りに進行して(図1)へ。
ここで先手は棒銀の意思表示。
局後の感想を聞くに、先手はこの形になれば棒銀と決めていたとのこと。
指し慣れた形で経験値の高さを感じられました。

図1

ここから角を交換した後に先手は銀も交換できました。
一般的に棒銀が捌ければ、まずは作戦は成功と言ったところ。
お互いに自陣に手を加えつつ迎えた(図2)の局面。
ここからの数手が本局1番の勝負所となり、感想戦で服部六段が丁寧に解説してくれた局面でもあります。

図2

図2から▲15歩△96歩▲同歩△97歩▲14歩△96香▲13歩成と進んで(図3)の局面になったのですが、図3まで進むと13のと金が大きく先手がリードを奪っています。
やはりと金、将棋はと金を作るゲームなのです。
「本譜の進行の△97歩に変えて△15歩と手を戻していれば、まだまだ互角」との指摘は服部六段。

図3

私も観戦しながら思っていたのですが、この端の攻防はほとんど時間も使わずにスイスイスイスイ進んでたんですよね。
「うわうわ、めっちゃ早い。もうちょっとゆっくり考えても良いんじゃないん?」って思いながら見てました。
そして▲13歩成となって、ようやく後手の手が止まった、と。
後手の堀川君も服部六段の指摘を受けて即座にその意図を理解していたので、局面を理解する棋力は十分にあるはず。
少し慎重になれば対処できたはずだけに、悔やまれる進行だったのではないかと思います。

気を取り直して2筋のケアに回った後手。
ここで先手の澤田君の視野が広い。
固くなった2筋から9筋に目を向けて、と金の挟撃体制を狙います。
狙いは後手の飛車。
守りの銀も86に繰り出して飛車の捕獲を狙います。
それが(図4)の局面。

図4

この後さらに持駒の銀も投入して飛車の奪取に成功しました。
先手の澤田君は「飛車を取れて、優勢を意識した。トンネルを抜けた感があった。」とのこと。
その言葉の通り局面は先手がリード。

対する後手の堀川君も必死に喰らいつきます。
後手が逆転するとしたら9筋の成駒の活用。
その成駒を懸命に働かせて先手玉に迫ります。
まだまだ手つきには闘志が篭っており「手駒も大量に蓄えて先手がミスをすれば一気の反撃!」の構えです。
何と言っても持ち時間の少ない将棋。
一気にひっくり返るのは将棋の醍醐味。

そして盤上は静かに進行し、満を持して先手の澤田君が21に飛車を下ろして(図5)の局面。

図5

やはり、この飛車が大きい。
後手の堀川君も△31香と最善の抵抗を見せますが、直後の▲23との追撃が厳しすぎる。
序盤に作ったと金がこの終盤にきて大活躍。
このと金を橋頭堡に最後は28の飛車も寄せに参加して、鮮やかな寄せを見せた先手の澤田君が見事に昇竜位優勝の栄冠を勝ち取りました。

対局直後の澤田君

両者ともに対局後の感想戦がとても楽しそうだったのがとても印象的で、時間にしても30分はゆうに越える熱中っぷりでした。
中3と小3が将棋を共通言語にスラスラ楽しそうに喋るんよ。
そこに時折、服部六段がアドバイスをくれたりして、そのアドバイスをふんふんと真剣に聞く姿がまた良いんよ。
ひょっとしたら対局時間よりも感想戦の時間の方が長かったかも知れない。

感想戦中の雑談で服部六段の
「ところで棋力はどれぐらいなの?」って質問に
「将棋ウォーズで初段です」って答え。
感想戦の内容からして明かにウォーズ初段の棋力ではなかったので、服部六段がびっくりしてのけぞってたのが可愛かった。
「初段じゃないよ。四段あってもおかしくないよ笑」ってツッコミが印象的でした。

まさに昇竜にふさわしい若々しい感性と、将棋を通じた友情が芽生える瞬間を目の当たりにさせていただきました。
来年は竜王クラスで活躍する姿を楽しみにしてます。

取材を受ける澤田君

先手:澤田歩 後手:堀川真
▲2六歩△8四歩▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金
▲2四歩△同歩   ▲同飛   △2三歩打▲2八飛△7二銀
▲7六歩△9四歩▲3八銀△8六歩▲同歩   △同飛   
▲8七歩打△8二飛▲2七銀△3四歩▲2六銀△8八角成
▲同銀   △2二銀▲7七銀△3三銀▲2五銀△4二玉
▲6八玉△1四歩▲1六歩△9五歩▲2四歩打△同歩   
▲同銀   △同銀   ▲同飛   △2三歩打▲2八飛△3三桂
▲5八金△7四歩▲6六歩△7三桂▲1五歩△9六歩
▲同歩   △9七歩打▲1四歩△9六香▲1三歩成△2四銀打
▲9四歩打△9八歩成▲9三歩成△8四飛▲8六銀△9九と
▲9五銀打△8六飛▲同銀   △9八香成▲8二と△8九と
▲7二と△同金   ▲2一飛打△3一香打▲2三と△8八成香
▲3二と△同玉   ▲2四飛上△7八成香▲5九玉△4二金打
▲2二飛上成△4一玉▲3一龍△投了   まで81手で先手の勝ち