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支援で小児科医が大事にしているもの

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。

差し入れをしていただいたり、有料放送を購入いただいたり、本当にありがとうございます。お返事はできていませんが、いただいたコメントにはすべて目を通しています。遠慮なくコメントをいただければ嬉しいです。

今日は、「支援で小児科医が大事にしているもの」というテーマでお話ししたいと思います。

あなたは、話し合いの時にどんなことに注意していますか?自分の意見をどうやって受け入れてもらおうか。相手の反論に対して、どんな風に理論武装しようか。そんなことを考えますか?

正義を疑う経験が少ないほど、どんどん自分を主張しようと思う心が育つかもしれません。どんな事件も、どんな戦争も、すべて自分の正義から始まっています。どんな犯罪者も、どんな戦争犯罪人も、自分の正義を疑うことなく、自分の欲望のままに突き進んでしまっている。そういうものです。

あなたは「集団思考」という言葉を知っていますか?集団での話し合いで、何か不合理であったり危険な決定がなされてしまう思考パターンのことを言います。戦争での誤った決定などの時に用いられる考え方です。自分たちを正義と思い込んで、自分たちの決定を疑わずに、誤った方向に突き進んでしまう。そんなことがあるものです。

特にこの集団思考に陥りやすい状況が知られています。

例えば、その集団が団結力のある集団であった場合です。一見すると、団結力があるっていいことのように聞こえますよね。でも、団結力の裏には集団思考を起こす危険性が隠れていることを理解している必要があるんです。

集団思考に陥りやすい状況として、そのほかには、その組織が欠陥を抱えている、ということです。例えば、その集団に色々な意見を聞いて回る機能が働かない状況がある、そんな欠陥です。そのグループを支配する独裁的なリーダーがいる。あるいは、お互いに危機意識がない、お互いに依存的な集団。そういった、お互いの意見を主張し合えない集団は、やはり危険ですね。

子どもの世界で起こり得る集団思考では、例えばいじめがあります。誰かをいじめのターゲットにしてしまい、集団で誤った加害をしてしまう。いじめっ子というクラスの独裁者のもとで、誤った団結力に基づいて、誤った判断をしてしまいます。いじめをしている本人たちは正義に向かって突き進んでいるかもしれませんが、集団思考の中での正義ほど、当てにならないものはありません。

「正義って危ないもの」「集団でまとまっている時ほど、集団思考には注意したい」。社会の色々な課題に向き合いながら働いていると、そのことを強く意識するようになります。

僕は小児科医として、色々な家庭的背景を持つ子どもたちの支援を行っています。そんな子どもたちへの支援という名目で、自分たちの正義を振りかざしているだけのことはないのか。そんなことに注意します。何が正義で、何が支援なのか、そのことをその支援集団から離れて客観的に考えられるようになるには、あることが必要です。

それは、何だと思いますか?

それは、自分とは反対の意見に一度は耳を傾けることです。それは、自分が主張している正義を一度は疑う、とも言えるかもしれません。「これは子どもたちにとっていい支援だ!」という気持ちに対して、一度は「本当にそうか?」、そんな疑いの気持ちを抱くことが必要だとつくづく思います。だからこそ、自分自身が正しい!と思うことを疑える心の余裕を作るようにしています。

そんなことを考えると、子どもたちへの教育に欠かせないと思うのは、反対意見を議論する経験です。子どもたちには反対意見の良いところを考える機会を与えてもらいたいと思います。自分とは違う価値観に立って物事を考える癖。その癖は、きっと子どもたちの一生を支えるはずです。

今日は「支援で小児科医が大事にしているもの」というテーマでお話ししました。

だいじょうぶ。
まあ、なんとかなりますよ。

湯浅正太
小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて:https://yukurite.jp/)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

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