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親の様子が子どもへ与える影響

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。

今日は、「子どもに影響する親の態度」というテーマでお話ししたいと思います。

この土日にはVoicyの企画として、リスナーさんからの相談に答える「お悩み相談室」という企画が組まれているんですね。そんなこともあり、今日はいただいたご質問に答えてみたいと思います。

リスナーさんからのご質問・コメントは、「子どもの前ですぐに、疲れた、眠い、などと言ってしまいます。外出して帰ってきた時などに言いがちです。親の言葉遣いや感情の出し方が子どもに与える影響がどんなものなのかを知りたいです」、そういった内容のご質問でした。

あなたは、どんな風に思いますか?親の心は子どもにうつりますから、親のネガティブな言葉は子どもにいい影響は及ぼさない。そんな風に思いますか。親は疲れていても、子どもの前では立派にしていた方がいいのでしょうか。疲れた、眠い、そんな愚痴は子どもがいないところだけで言った方がいいのかどうか。どうでしょう?あなたは、どんな風に思いますか?

この問いを考えるにあたって、先に子どもの心の反応についての理解を共有したいと思います。

一つ目は、間違いなく親の感情は子どもに影響する、ということです。それは、間違いありません。親の「言葉遣い、表情、行動」は、生まれつきのその子らしさに加えて、その家庭らしさを肉付けしていく、そんな風に言えるでしょう。明るい家庭には、明るい子供が育ちます。暗い家庭には、やっぱり暗い子どもが育つ。そういうものです。

二つ目は、子どもも親もSOSを出せることは大切、ということです。疲れたら、疲れたと言える。困ったら、困ったと言える。それができずにいると、気づくと心がヘトヘトになってしまい、不登校になっている子どももいるものです。愚痴も言えずにいると、親もヘトヘトになってしまいます。

子どもに限らず大人でも、疲れた自分を曝け出せることは、ストレスが多い社会を乗り越えていく上でとても大切なスキルです。そして、親がストレスを溜め込んでいると、それが言葉や表情、あるいは行動として現れて、結局その親の心が子どもに影響するものです。

では、一つずつ考えていきましょう。

一つ目の、間違いなく親の感情は子どもに影響する、ということについてです。

例えば、不安が強い親の元には、不安が強い子どもが育ちます。遺伝という要素も一部あるかもしれませんが、親でなくとも、子どもの様子は一緒に暮らす大人の様子に似ます。そのことを考えると、遺伝という要素は置いておいて、やはりそばにいる親の感情は子どもに大きく影響することがわかります。不安が強い家庭に、不安が強い子どもが育つ。そう言えるということです。

ただ、ここで注意したいことが、「不安を口にすることが悪」ということではないということです。

なぜなら人間にとって、愚痴をこぼしたり、自分の不安な気持ちを誰かに伝えることって、自分の心を保つためにとても大切なことだからです。気を張り詰めて頑張ってばかりでいる必要はなくて、心の余裕を作りながら自分らしくいることが大切なんです。それは、子どもだけでなく、親にも言えることです。

それが、二つ目の「子どもも親もSOSを出せることは大切」ということにつながります。

親の行動を見て、子どもは社会的行動を学習していきます。そのため、子どもがSOSを出せるようになるためには、親もSOSを出すことを躊躇う必要はありません。ですから、子どもの前で「疲れた」「眠い」、そういった言葉を言う親がいけないということではないんです。

しかし、・・です。課題はその頻度です。親が常習的に習慣的に愚痴をこぼしたり、不安を口にする場合、その様子は子どもの不安定な心を助長する可能性があることを念頭におくべきです。習慣的に不安が強い親の元には、不安が強い子どもが育ちます。親が習慣的に何かにつけ否定的な発言をしていれば、その生き方が子どもに刷り込まれます。子どもに将来への明るい視点を手に入れてもらいたいと考えた時、親の否定的な気持ちや考えを子どもに常習的に伝えるような行為は、やはり考えものなのです。

では、愚痴をこぼさず完璧がいいかと言えば、そういうわけでもありません。やはり、ゼロかイチではなく、適度なバランスなんですね。その例をお話ししたいと思います。

例えば、世の中にはこんなご家庭もあるものです。子どもの前ではいつも完璧でいようとする親御さんがいます。子どもが朝起きた時には、いつもメイクをバッチリして完璧でいるお母さん。お父さんも、物事をカチッカチッと枠にはめて考える特徴があって、物事が少しでもその考えからはみ出しすと許せないという気持ちが強い。そんなご家庭があるものです。

でも、人って、完璧であるわけないんです。完璧であるように見えて、結局融通が効かずにどこかでボロが出てしまうものです。完璧であろうとすると、柔軟性に欠けてしまう。ですから、いつも完璧でいようとする必要はないんです。完璧でいようとするご家庭の中で起きる問題には、どんなことがあると思いますか?例えば、お子さんの不登校です。

先ほど、「親の行動を見て、子どもは社会的行動を学習していきます」と言いました。完璧でなければならない親御さんを見て、その子どもは「お母さんみたいに、お父さんみたいに、完璧でないとダメ」、そんな風に思ってしまうこともあるものです。そうやって、自分を追い詰めながら生活していくと、子どもも疲れてしまうんですね。特に「意識高い系」の親御さんのもとでは、そういった子どもの問題が生じやすいかもしれません。

人が社会で色々な交流を体験する中では、必ず不安や疲れが生まれるものです。笑顔で会話をしていても、頭の中は一生懸命神経伝達物質が盛んに行き来しています。その状態をずっと続けてしまうと、いつか身体はダウンしてしまう。だから、人にはリラックスが必要なんです。失敗してもよくて、その失敗を適宜補えるような柔軟性があることの方が重要です。

このように、子どもにとってはリラックスできる環境がとても大切なんです。ですから、愚痴も言えて、SOSを発信できる親子関係はとても重要です。親がポロッと「疲れたあ」なんて言える家庭ということが、「人って、こんな風に愚痴を言ってもいいんだ」と子どもに理解していただくうえで大切でしょう。

でも繰り返しになりますが、問題は、その親の愚痴や不安を口にすることが習慣的なものでないかどうか、という点です。毎日、毎日、ルーティンのように愚痴や不安を口にしてしまう親御さん。そういった常習犯にならないことがポイントなのです。時には愚痴をこぼしてもいい。でも、愚痴の常習犯にはならないでください。そういうことです。

でも、常習犯にならないって、難しいですよね。どこまでが常習犯じゃなくて、どこからが常習犯なのかなんて考えたら、キリがありません。そのことを考えるために、ここまでの2つの事項のほかに、最後に一つだけ加えたいと思います。

それが、親が子どもの反応を意識する、ということです。親に子どもが反応するのは、当たり前なんです。親が意識しなくとも、子どもは常に親の様子に反応しています。子どもたちは明るい態度の親御さんを見て、自然と無意識のうちに明るい行動をとれる子どもに育っていきます。逆に、人の気持ちへ配慮できない親の態度を見て育つと、子どもにはいじめの加害者になるような心が育つものです。

子どもが親の影響を受けやすいということは、柔軟性として捉えられるかもしれません。子どもたちは変わりやすいんです。まだまだ如何様にでも作り変えられる、温かくて柔らかい心を持っています。

でも、親となると、そうはいきません。大人はなかなか変わりにくいんです。20年以上の年月をかけて作られた大人の心は、そう容易くは変わることはありません。ですので、子どもは親を見て、その心を多様に変えていきますが、親はその子どもを前にしても、なかなかその心を変えるのは難しいものです。

ですから、大人である親は子どもの反応を意識的に見る必要があります。親は自然には変わらないからです。大人とはなかなか変わりにくいもの、そんな固い大人の心をできるだけ柔軟に変化させるためには、意識的に子どもの反応を観察することが必要なんです。

どんな親であっても、子どもの反応を意識するようになると、少しずつ変わっていくものです。色々な親子関係の再構築に関わる中で、小児科医として気づいたことはそのことです。この意識こそ、親が常日頃からの常習的な癖から脱却するヒントだろうと思います。

親が、親自身の表情や行動が子どもの心に影響していないか、そんなことを意識するようになると、親自身の行動が変わっていきます。親が変わると、子どもも変わります。周囲の影響を受けて千変万化する子どもの反応を意識することで、いくら愚痴を言っても、笑顔を添えることができるようになったりする。そうやって常習犯の様子が変わっていくものです。

正直なところ、愚痴をこぼす、不安を口にする、その親の習慣化された行為はすぐになくなるわけではありません。先ほど言ったように、残念ながら大人は変わりにくいんです。心がカチカチに固くなっていて、柔軟性に乏しいのが大人の心の特徴だからです。

それまで習慣化していた仕草がすぐに解決できるなんていう魔法の方法はありません。でも、そんな親でも子どもの反応を意識するようになることで、常習的な行為は変わらなくても、笑顔で関わる工夫をできるようになることもあるものです。

だから、コメントをくださったリスナーさんが、自分の言動の後に子どもがどんな表情になるのか、その発言をした後の子どもの様子に意識を向けることができるようになれば、それでひとまずはいいと思います。親の行動により子どもがどう反応するか、そのことを意識できるようになった親御さんは、やはり「変わる」からです。

それでは、今日のまとめをします。今日は、こんなことをお話ししました。「間違いなく親の感情は子どもに影響するのだけれど、子どもも親もSOSを出せることは大切なので、感情をすべて隠す必要はないことに触れました。その上で、親自身がネガティブ発言の常習犯になっていないかどうかには注意していただきたいとお伝えしました。ただ、仮にネガティブ発言の常習犯だったとしても、その習慣をすぐに変えることは難しいので、せめて子どもの反応を意識してもらいたいことを最後にお話ししました。

子どもの心を本当に真剣に考えるようになるからこそ、親は成長するんだと思います。カチカチに固くなる心を再びほぐしてくれるのが、おそらく子育てなんだと思います。

そして、子どもという他人を理解する過程で、親は自分のことを理解するようになります。つまり、「子育て」でわかってくるものって、子どものことというよりも、親自身のことなのかもしれません。子どもを知ることで、結局親自身のことを理解するようになる。子育てって、そういうものなんだと思います。

今日は「親の様子が子どもへ与える影響」というテーマでお話ししました。

だいじょうぶ、
まあ、なんとかなりますよ。

湯浅正太
小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて:https://yukurite.jp/)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

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