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親に潔癖症があってもご機嫌に過ごせるために

絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心を育てるうえで役立つ情報を発信しています。そんな、子どもの心を育てるということを、あまりかたく感じないでください。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。

今回は、親に潔癖症があってもご機嫌に過ごせるためにできることを考えたいと思います。

昨日の放送で、森鴎外について少し触れました。彼は作家として有名ですが、軍医でもありました。ドイツの医学を学ぶことが主流とされていた当時、ドイツへ留学し医学を学んで自信をつけていた森鴎外でした。そんな彼はドイツで細菌学を学びました。

そんな細菌学に強い影響を受けたからこそ、脚気の原因を細菌であると誤解してしまうこともありました。

そんな彼には面白い特徴があったと言われています。それが、潔癖症です。ドイツで細菌学を学んで、風呂場には細菌がたくさんいると言って、風呂場を嫌っていたそうです。

あなたの周りにも、そんな人はいますか?風呂場に細菌がいっぱいいるから、風呂場はイヤだ。そんな風に考える人は、多くはないと思います。でも、汚いと思って何度も手を洗ってしまう。そんな程度の潔癖症の人は案外いるものです。

潔癖症は正式な医学用語ではありません。医学用語を使うとしたら、強迫性障害となります。例えば、汚いという考えが自分の頭に浮かんで、自分の手を何度も何度も洗ってしまう。自分でもバカバカしいと思っていて、そうしてしまう。それが、強迫性障害です。

強迫性障害のある人には、潔癖症の行動以外にも、他の困った行動もあるものです。例えば、家の鍵をかけたかどうか何度もチェックしたり、コンロの火を消したかどうか何度もチェックする、そんな行動があるものです。

そして実は、そんな強迫性障害をもっている人の親も、そういった傾向があることが少なくありません。森鴎外は最下級の武士の家に生まれましたが、もしかしたらその家庭の中にも、強迫性障害の行動をもつ親御さんがいたのかもしれません。

神経質な気質が、親子で遺伝するという考えもありますが、子どもが日々の親の行動をみて真似てしまうという影響もあるようです。親の行動は、子どもの行動になるということです。ですから、親の行動が子どもにうつってしまわないように、親の行動をどうするかということを考えたいと思います。

強迫性障害自体は決して珍しいわけではありません。それに、多少そういう傾向はあるかもしれないなんて人は、たくさんいます。問題は、その行為が生活に支障をきたすようなレベルかどうかです。

本人がバカバカしいと思っていても、ドアに鍵をかけたかどうかを何度も何度もチェックせずにはいられない。そんなことをしているものだから、職場に遅刻してしまう。強迫性障害のある人は、そうやって実際に困っているものです。

では、そんな強迫性障害のある人は、どうやったらその行動が改善するのでしょうか。薬をつくりを使う方法がありますが、その他の方法を考えたいと思います。

強迫性障害については、その行動を完全に無くすということは難しいことが知られています。それに、多少気になる行動があっても、その行動に困らずに生活している人はたくさんいるのです。

ですから、強迫性障害の治療目標も、その行動を生活に支障がないレベルにすることです。多少その行動があっても別いい。そんな傾向が多少あっても、困らずに生活できるからです。

そこで大切なのは、困った行動を生活に支障ない行動に変えてしまうということです。そして、別にいいやという気持ちを大切にすることです。

例えば、手を洗わないといけないという気持ちが湧いたら、「握り拳をギュッとすると自分の気持ちが落ち着く」なんて決まりを自分でつくってしまう。そうやって、生活に支障ない、「握り拳をギュッとする」という行動が、自分の気持ちを落ち着けるという決まりを自分でつくってしまうのです。

そんな自分で勝手に決まりをつくって、うまくいくの?と思うかもしれません。でも、強迫性障害をもっている人は、自分の気持ちに純粋なまでに従う傾向にあります。自分で意図的に決めたことに対しても、従うようになるのです。不思議なものです。

手を洗っている時にもう一度手を洗いたいという気持ちが湧いたら、握り拳をギュッとしてみる。自分で決めた「握り拳をギュッとする」という方法で、自分の気持ちが落ち着くんだと思いながら、その行動を行ってみる。

失敗しても別にいいやという気持ちで、何度かチャレンジしてみてください。どうせこれまで何度も失敗してきたのだから、失敗してもいいやという気持ちをもつ。

そんな風にすると、自分の決めた方法で気持ちがちょっと落ち着くことを経験できると思います。ちょっとできただけでも、大したものです。そういうちょっとできた経験を何度も重ねていく。そうやって、自分の行動を操ります。

強迫性障害はしぶといです。でも、生活に支障がない程度にもっていく、失敗しても別にいいやという気持ちを大事にする。そうやって、親自身が自分の心の特徴を理解して、自分の心を操る方法を身につけておくと、とても便利です。そしてその影響は、いつしか子どもに現れるものです。

今回はここまでです。

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