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ローライフレックスとライカ(2) ロバート・キャパの謎に関わるカメラ

ドイツを代表する高級カメラのローライフレックスとライカ。片や二眼レフ、片や35mmのまさに金字塔と言えるカメラです。私は以前からローライフレックスを趣味で使っていて、最近になってバルナック・ライカと呼ばれる昔のライカのカメラにも興味が出てきています。その中でカメラについての本をいくつか読むようになったのですが、この2つのカメラが「世界でもっとも有名な戦争写真」のひとつである写真にまつわる謎に深くかかわっている、ということは全く知りませんでした。作り物の話ではない、本当のミステリーです。

その写真とは、ロバート・キャパがスペインの内戦を取材していた1936年に撮影したとされる「崩れ落ちる兵士」です。著作権の問題があるのでここで写真の掲載はしませんが、ウェブ検索するとすぐに出てきます。ウィキペディアの要約ですが、「共和国政府側の兵士が反乱軍と戦っている最中に銃弾で倒れたところを写したものと信じられ、ピカソの『ゲルニカ』と並んで反ファシズムのシンボルのように扱われた写真であり、22歳の無名の青年だったキャパを一躍有名にした写真」だとされています。

この写真は兵士が仰向けに倒れる瞬間をあまりに完璧なタイミングを捉えていることから、長年「真贋論争」が繰り広げられてきたといいます。キャパに共感を覚えていたという沢木耕太郎さんが、この写真の徹底的に謎に迫ったのが『キャパの十字架』という本です。

ネタバレにつながるので本の詳しい内容には立ち入りませんが、「崩れ落ちる兵士」の写真がどのように撮られたのか、誰が撮ったのかを突き止める手掛かりとなるのが、ローライフレックスとライカなのです。

当時、キャパは恋人のゲルダとともにスペイン内戦の取材に赴いていました。その際に持参したのが、ライカIII(もしくはIIIa)とローライフレックス・スタンダートの2台のカメラだったそうです。35mmフィルムを使うライカで撮れるのは横長(もしくは縦長)の写真、ブローニー判を使うローライフレックスでは正方形の写真が撮れます。雑誌に掲載される際などには不必要な部分をカットして使われることも多いのですが、そうだとしてもこの2台のカメラでは写し取れる「縦横比」が違います。この縦横比の違いや、ローライフレックスはファインダーに写るのが左右逆像になるという点をもとに、沢木さんは「崩れ落ちる兵士」が撮影された状況を克明に推察していきます。普通の謎解きの読み物としても面白い本ですが、ローライフレックスやバルナック・ライカの使い手が読むと、さらに楽しめると思います(昔のカメラの指南役として田中長徳さんに助力を仰いだ、といった記述も出てきます)。

さらに、このエントリを書いている最中に知ったのですが、沢木さんの本が出た翌年、吉岡栄二郎さんという写真美術史の専門家が「ロバート・キャパの謎: 『崩れ落ちる兵士』の真実を追う」という別の本を出しているそうです。そちらには、沢木さんが唱える説への反論も述べられているとか。

私はこちらの本はまだ入手していませんが、ぜひ読み比べてみようと思っています。

【追記】

『ロバート・キャパの謎』も読みました。沢木さんの本に疑問を感じたのが執筆のきっかけになったと後書きにあるように、こちらの本では「崩れ落ちる兵士」の撮影背景について、別の見解が提示されています。著者は写真美術史の専門家で、キャパの弟などとも親交のあった方。この本に書かれていることも、とても説得力があるように感じられました。



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