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吉祥寺日記

欲張ってアイロンがけまでしてしまい、出るのが遅くなった。乗るつもりだったバスが団地前を通り過ぎていく。きな粉餅を食べながらのアイロンがけだったのもまずかったな。

仕方なく駅まで歩く。歩きながらGooglemapと乗換案内を駆使して吉祥寺滞在可能時間を計算する。1時間…電車に乗っている時間の方が遥かに長い。でもいっか、今回の浅野みどりの個展、今日を逃したら行けないもん…山本文緒の最期の言葉が綴られた『無人島のふたり』を読んでいなかったら行かなかったかもなー、とも思う。

お茶の水で、祖母が好きだった黄色とオレンジの電車の乗り換えをする。祖母は武蔵境に住んでいた。吉祥寺でよくデートしたものだ。

吉祥寺駅はおしゃれな立体交差的な構造になっており軽く迷ったが、商店街に繋がる細い路地、路地、変わらないなーと眺めながら急ぎ足で目的地へ向かう。

「カレー、オイシーよ」と差し出されたネパール料理店のフライヤーを取り損ねてしまい、何となく振り返ると「コッチよ、オイシーよ」とお兄さんにお店まで連れて行かれる形になってしまった。「ちょっと急いでて…」「そうなの、なにかあるの?」「絵が見たくて」「エーガね、すぐ食べられるよ!コッチよ!」という噛み合わない会話が楽しくて結局店内まで付いていき、ほうれん草のカレーとラッシーを頼んだ。

どことなくマフィアっぽい(褒めています)別の店員さんが笑顔で「久しぶりだね!元気だった?」とお冷やを持ってきてくれた。「前も来たよね?」と畳み掛けられたので、正直に「(吉祥寺には)20年ぶりに来たよ」と告げると即座に「じゃ、次来るのもまた20年後?」ときた。一緒に笑い、一息つくと「毎週来てよ!」と去っていった。

本当にすぐに出てきたカレーに「いただきます」と手を合わせると「ナマステ〜」とマフィアが言う。美味しかった。レジもそのマフィアで「なに、もう帰っちゃうの?また来週来てよ!」に笑う。


ネパールから5秒で目当ての画廊に着いた。ラッキーなことに空いているのでそろりと入る。真鍮の六角メガネの優しそうなお姉さんが「今日は浅野が在廊していないのですが…」と申し訳なさそうに話しかけてくれる。「今日しか来られなかったので、大丈夫です大丈夫です」と応じる。

浅野みどりさんの絵を初めて見たのは、ロッテのチョコレート菓子シャルロッテのパッケージだった。5種類か6種類くらいあっただろうか、優しそうなパティシエがお菓子屋さんの窓から見えたり、可愛い女の子がショーウィンドウを覗いていたり、好きすぎてハサミで切り取って冷蔵庫に貼ったりした。

真鍮メガネのお姉さんがそっと話してくれたことによると、グラフィックデザイナーだった浅野さんは(ちなみにグラフィックデザイナーってなに?という質問にも優しく丁寧に答えてくださって、ありがとう好きです)イギリスで手作りのカードを渡したらとても喜ばれた体験から、イラストを手がけるようになったそうだ。映画『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』を思い出したり。若年性リウマチで遠出出来なかったモードの「窓が好き、世界が詰まってる」という台詞にグッとくる映画です。

昨日も無理すれば行けたけど、今日で良かった。ネパールとお姉さんに会えた。

時間があれば、くぐつ草で個展のフライヤーにお手紙書いたり、昔通ってたフラメンコ教室まで歩いたり、井の頭公園やドナテロウズ(もうないのか?)や三鷹のユニテという本屋さんに行ったり、『ひらやすみ』の阿佐ヶ谷に寄ったり、なんか中野にもいいカフェがあった気がするし、何なら神楽坂に寄りたかったけど、いい日だった。

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