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松江(9)小泉八雲

 小泉八雲旧居は松江城の堀の東側・塩見縄手の一角にがあり観光名所だ。うつむき加減の肖像やアイルランド人の父とギリシャ人の母をもち、欧米を転々とした後来日し、日本国籍をとって出雲の枕詞である“八雲”を名前にした文筆家。
 妻セツに語らせた日本の民話や伝承を元に怪談はじめ多くの作品を書いた。視力が極端に弱く、机につっぷすようにして原稿を書いたと伝えられている。旧居内にある机を見れば様子がわかる。宍道湖の夕日を愛し、夕暮れ時になると人力車をせかせて大橋まで出向き、夕日を眺めたという話もある。視力の乏しい彼にとって落ちている日の光は、まだ見えるという確認だったのだろうか。
 反対に音については独特のとらえ方をしていた。木製の松江大橋を歩く人々の下駄の音をカラコロと表現した。この表現から大橋近くにある旧日本銀行の建物は観光拠点になり「カラコロ工房」と名付けられている。
 怪談を再読してこの文章に流れる静謐な響きは何なのだろうか、と思う。怪談で語られる雪女の息づかいも耳なし芳一が亡霊から呼ばれる場面も読んでいるうち、音が聞こえてくる。自身とは文化も価値観も全く違う日本人の言葉と考え方耳を傾け、明治時代に生きる日本人の命に対する思いを独特のタッチで描いた。ジャーナリストでもあった彼は人の言葉を真摯に聞いたという話も残っている。セツとの結婚で日本に帰化して10年あまりでこの世を去った。
 

ラフカディオ・ハーンとよばれるが本人はラフカディオ・ヘルンを好んだ。松江の人々は親しくヘルンさんと今でもよぶ。地元で愛される地ビールはへるん、という名称だ。


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