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山陰の温泉(3)皆生温泉

  山陰は温泉の宝庫だが、米子では奥座敷といわれる皆生温泉がある。“かいけ”と読み、亡くなった人の魂がこの海岸に流れつき生まれ変わると伝承され、みんな幸福に生きようよ、という意味で命名されたと聞く。1900年に漁師さんが偶然海の中から温泉が湧き出ていることを発見して温泉街へと発展した歴史を持つ。
 JR米子駅から2キロくらい、米子美保空港から6キロくらいです。温泉質は「ナトリウム・カルシウム-塩化物泉」で温泉につかってなめてみれば「塩っからい」のがわかる。源泉が海の中ですから、当初はこの温泉水は海水だと思われていたが、調査の結果、海水よりカルシウム分が多いとのこと。皮膚のあれ易いお子さんの肌が皆生温泉に入ってすっかりよくなったという話ももれ聞く。特に女性に嬉しいことにお肌がきれいになること。冬場は体がぽかぽかと温まりリフレッシュにもってこい。温泉に入った人はみんな幸せということを実証している。
 この温泉街の旅館は40軒ほどある。その中でお勧めは部屋数20室ほどの「海色・湯の宿」という定冠詞がついている旅館・松月(しょうげつ)です。駐車場から少しの階段をあがって玄関に入るとお香の香りが漂う。その雰囲気と香りで非日常の世界に自然に誘なわれ、次にいらっしゃいませ、というほどよい声が聞こえる。大声で言われればかえってこちらがひいてしまうし、ささやき声ではせっかく入ったけれど間違えてしまったの?といぶかしくなるからちょうどよい声音ほどむずかしいものはない。でもこの松月の挨拶はたおやかで優しい。ああ宿に無事到着した・・・という安心感を得られる。もちろん部屋に通されてからチェックアウトまで担当してくださる仲居さんの応対も気が利いていて穏やか。
 なぜこのように心地よい対応があるのかなと思ったら松月の女将さんは3代目でご自分の目の届く規模のおもてなしをする旅館を目指して心配りに余念がないという。どんなビジネスにもいえることですが、事業の立ち上がりのときは張り切っているから“できる”ことが時間の経過とともに薄れてしまいがち・・・でも、この松月はどの季節に泊まってもどんな時間帯にチェックインしても、接してくださるスタッフの皆さんの様子に変わりはない。女性に人気の好きな浴衣を選べること、露天風呂つき客室、エステなどサービスは充実している。
 旅館に泊まることの大きな楽しみは料理とアルコール。出される創作料理は板さんの気合の入った見るも鮮やかな美味しい品が並び、頂ける地酒は千代むすび。辛口・少し甘口が用意されている。思わず箸がすすみ、いい気分になることは今さら書いても・・。
 温泉に泊まることの楽しみの一つが朝風呂。最上階の展望露天風呂に入り、まずオーシャンビューとしゃれて目の前の日本海をながめ、首をまげてマウントビューで大山を見ることができる。“絶景かな”といわなくても絶景、生きててよかった、これが皆生温泉の醍醐味・・・と一人で悦にいる。
 99年の鳥取県西伯地震のときに家が崩壊し入浴できない被災者の方々に女将さんの決断で「どうぞ松月のお風呂で疲れを癒してください」とすぐに無料開放を申し出て喜ばれたとか・・・「温泉はどんどん湧いてくるものですから」と平気な顔して語る旅館の常務の言葉も感動的だった
ゆうこの山陰便り   NO.29。

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