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「第19話」アメリカの短期大学について (アレックスと昼食を食べた時の話)

エピソード4(ニューヨーク・短期大学時代)第19話 

カフェテリアで私達は何を食べたか忘れたが、とりあえず4.5人用の丸いテーブルを見つけ、そこで小一時間話した。私の英語力の為だろう、彼は自分が常日頃から使っているであろう予定表のメモ欄に、強調したいワードをその都度書きながら、私に話した。

私の悩みを親身になって聞いてくれたアレックスは、私の通っていたラガーディア短期大学を数か月前に卒業し、今はインターナショナルオフィスのMentor(相談相手・アドバイザー)をしている。今学期いっぱいで学校を離れるそうだが。彼を廊下で見つけてとっさに話しかけて本当に良かったと思った。

彼は短大に来るまでは、クイーンズのとある病院で薬剤師として働いていたそうだ。それがどうして、こんな地元の底辺短期大学に通っているのだろうと私は疑問に思った。詳しい事は忘れたが、彼は新たなビジネス、又は病院でのプロモーションのために、どうしても取らなければいけない学位があるとの事だった。どこの大学かは忘れたが、短期大学では学位は取れないので、これから一般の大学に編入してそこで学位を取ると言っていた。

コミュニティーカレッジに来て直ぐに気がついたのはその年齢層の高さだ。勿論高校を卒業して、特に進路も決まっていなく、とりあえず地元の短期大学だけ行っておくという堕落したティーンエージャーが沢山いる一方、病院での看護師の資格取得のために(大学の看護学科は大きかった)通うシングルマザーが沢山いた。また、若い頃に大学に行かなかったせいで、良い仕事に就けない。大学で学びなおして、一から人生をやり直したいという中高年を沢山目にした。日本の大学とは(日本の大学に行ったことがないが)学生の年齢層や、必死さが違うように思った。学生の9割は、ファイナンシャルエイド(公的補助)に頼りながら学業に励んでいる低所得者だった。今の生活から抜け出したい人が、希望を持って必死に勉強しているのだと。日本では20代後半ですら大学に通う事を好ましく思われない風潮があると思う。何歳からでも学びたいと思った人に教育の門戸が開かれているアメリカは素晴らしいと思った。

話は戻るが、アレックスは私との会話の中で、この国での英語の重要性を説いた。「いいかい?この国では英語がとても重要なんだ。良い仕事を就くのにも英語ができなければいけない。君はピアニストだと言っていたね。君が将来、名誉ある賞を受賞した際に、壇上で英語でスピーチが出来ないといけない。英語と教養を身につける事が、この国で成功することなんだよ。」

英語をアメリカの音楽大学に受かるためのRequirement (必須事項)だけだと思っていた私は何か目を覚まされた気がした。しかし次にアレックスが言ったことには驚いた。

「君はESLの一番下のクラス、ESL97から始めなきゃいけないようだね。私もこのクラスを取った。一度ではパスできなかったからパスするのに二学期も費やしたよ。君はこうやって会話しているから分かるけど、当時の私よりずっと英語ができるから大丈夫。頑張って勉強しなさい。

私はとても信じられなかった。先日のオリエンテーションで留学生向けに簡単ではあるが、自己紹介と、留学生センターの説明を行っていたアレックス。そして今でもこうやって英語を流暢に話している。彼は、ほんの数年前まで、私と同じESLの一番下のクラスから始めたと言うのだ。

並大抵の努力ではない。前学期は36単位とっていたそうだ。しかもオールAの成績。とにかく毎日必死になって勉強をしていると言っていた。このみなぎるパワーは一体どこから来るのだろうか?これがニューヨークで働く人のスタンダードなのかと思った。なるほど、少しでも明日のより良い生活の為、家族のため、子供のために努力を惜しまない人がここには沢山いると。

「いいかい?ESLを取りなさい。お金が無かったらファイナンシャルオフィスでお金が出るし、私も留学生センターの責任者のジェニーに取り合って見るから。他にも色々な奨学金を探すのを手伝うから」

あれほど絶望のどん底にいた私が、その時新たな目標が出来た瞬間である。
「よし、こうなったら英語を頑張ろう。そして教養を身につけ、一流のピアニストになるのだ」

この時私は、音楽留学の為にニューヨークに渡ったのだが、音楽とは無縁の短期大学に2年半通う事になるであろうとは想像もしなかった。

【続く】

写真:学校のEビルディングのカフェテリア。昼飯を食べながら宿題をやったりしていた。ここのサラダとパニーニが美味かった。

P.S 
毎朝の日課として波乱万丈留学日記を書いていたのですが、喫茶店に行き、執筆を終えて帰ってくると、もう12時。本職のピアノが最近おろそかになっていると思ったので、これからは朝にピアノの練習をし、夕方以降、気楽に書いていこうと思います。なので夜寝る前に更新を確認して頂ければと思います。今日で連続更新19日目!これもいつも読んでくれているファンの皆様に支えられてです。最近スキが減ってきたので、スキをしてくれるとモチベーションがあがります (笑)ではまた明日( ^ω^ )ニコニコ

ジャズピアニスト 二見勇気
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