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「第31話」始業式前にピアノの練習場所の確保に苦労した話

渡米する前から私が常に不安に思っていた事はピアノの練習場所の確保である。ツアーなどで2,3日ピアノが触れない経験もここ数年に何度かあり、ピアノが練習できない時の対処の仕方も上手になってきたと思う。イメージトレーニングでコンディションを保つことも出来るようになったし、休息する大切さも学んだ。今では丸一日ピアノの練習をお休みする事も良くあるし、ピアノを弾かない事で不安を覚えることは少なくなってきたが、7年前の自分は練習不足恐怖症だったので、常にピアノを弾かないと落ち着かなかった。

ニューヨークに着いてから授業が始まるまでの2週間は、近所の教会を周り、ピアノを練習させてくれるところを探した。ある日、私は近所の韓国系の教会を訪れ、自分はピアニストなのだが練習場所が無くて困っている、オタクのピアノで数時間練習させてくれないかと頼んだ。牧師の方は、何なんだこいつは(・_・;)?と私の事を不思議な奴だと思いながらも、事務所に置いてあったピアノを無料で使わせてくれた。隣の部屋では、牧師とその奥さんが、産まれたばかりの子供をあやしていた。その日は数時間練習した。何十年も調律をしていない韓国製のピアノで(確かSamickだったと思う)状態も悪いし満足に音も出ない。教会の方に礼を言ってその場を去った。その教会に行くのはそれが最後だった。

ニューヨークは大都会なのに音楽スタジオがほとんどない。お手軽に使えるのはタイムズスクエアにあるMichikoスタジオだけだ。東京には何百と音楽スタジオがあるのに。個人的な意見だが、私は日本人の方が文化的な人が多いと思う事がある。音楽で飯を食っているか、食っていないかは別にして、アマチュアで音楽を楽しむ人や学生でロックバンドを組む人など、音楽愛好家は多いと思う。東京ではギターのケースやバイオリンのケースを背負って歩く人を沢山見かける。この文化は大事にしたいと思っている。ニューヨークは確かに日本人より素晴らしいアーティストは沢山いるのだが、アマチュアで音楽を楽しむ人が少ないような気がする。それが音楽スタジオの数にも影響しているような気がするのだ。NYCのプロのミュージシャンはは音大のリハーサル室や壁の厚いアパートを借りてセッションしている人が多いような気がする。

話はそれてしまったが、ここのピアノのスタジオは暗い、臭い、汚い、3K・・・・いや、値段が高い、部屋が狭い、ピアノがボロいの6K?だ。笑 1時間ヤマハのアップライトピアノで練習して千円はとられる。たまに利用するなら良いが、毎日ここで練習していたらお金が底を尽きてしまう。

そういう訳で新学期が始まって大学の練習室のピアノが使えるまでは、ハーレムにあるCity college of New YorkかチャイナタウンにあるQueens Collegeに忍び込んで練習していた。アメリカの大学はセキュリティが厳しく、部外者は中々入れない。なので音楽棟に入るときも、そこの学生とリハーサルをやるという体で忍び込む事が多かった。運が良いとセキュリティーがいないので一人で入れることもあったのだが、大抵は入り口で身分証を提示させられる。

City College of New Yorkは三富さんや後藤君、修平君(後日紹介)に協力してもらって、Queens校はMartinや李さんに協力してもらったことが多かったと思う。

これらの協力者が学校にいない時は、一か八かで行くしかない。しかし、これは時に大きなギャンブルである。私の家からは、歩いたほうが早いのではないかと思う程のスピードの電車に乗られ、片道1時間。工事や休日で電車が運航していないときは、バスを乗り継ぎ、片道2時間かけて学校まで行くのである。そして、なんとかたどり着いた大学で、警備員に入れてもらえなかったり、キャンパスが閉まっていたりしたら、なんともやるせない気持ちになるのである。日本だと何に例えられるだろうか・・・片道2時間かけて、スーパーに食材を買いに行ったのに、お店が空いていなかった時の心境だろうか。こんなのがニューヨークに住んでいた時は何度もあった。短期大学の授業が始まってからも、学校の突然の休校や、音楽室を使うまでに色々とトラブルがあり(次回号で詳しく話したいと思う)ニューヨークに住んでいた2年間半は、練習場所の確保との戦いであった。音大生でないばかりに、このような事に神経を使わなければならず、悔しかった。

あとそれから、ユニオンスクエアのNYUにも忍び込んだ。ここはニューヨークで最も練習環境の良いスペースと言っても過言ではない。ピアノはヤマハかスタンウェイのグランドピアノが各部屋に入っており、調律が毎週のように入るので状態は最高だ。冷暖房も入っているし、清掃が行き届いている。まさに完璧な練習棟だ。(強いて言えば残響がひどく、長時間練習をすると耳が痛くなる。)私は、ここの学生であったジョンとレストランで演奏をする機会が増え、ジョンに入れてもらっていた。ところが、ある日見回りのスタッフに私がここの学生ではないとバレてしまった。私はジョンとリハーサルでこの部屋にいると言ったのだが、運悪くジョンが他の部屋で練習しているのを発見されてしまった 笑 私は出禁を食らってしまった。

・風邪をひいた時に、健康だった時のありがたみ
・彼女を失った時にセクロスが出来た時の幸せ
・髪の毛が生えていた時に髪の毛があった尊さ
・留学をしてから、母親の作る健康的なご飯が毎日日本で三食食べられた事へのありがたみ

人は失ってからありがたみに気が付くのである。
ニューヨークに行くまではコンディションの良いピアノで、好きな時に好きなだけ練習できる事がこんなにも幸せな事だと思わなかったのである。

写真:朝の通学の様子を撮ったものである。怠惰な生活にならないようにと毎朝8時のクラスを受講していたので、毎朝6:30分おきで、7時過ぎの電車に乗っていたと思う。こんなにも早くからの授業をとる学生が多くいる事にも驚いた。(朝5:30のクラスとかもあった。)そういう意味でニューヨークはバイタリティー溢れる街だったと思う。最寄りの33番通り駅から、眠く疲れた体を奮い立たせ、キャンパスに向かって歩いたのを今でも覚えている。

ジャズピアニスト 二見勇気
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