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「第34話」NYC ユニオンスクエアのレストラン・BITE14でピアノを弾いた時の思い出【前編】

エピソード4(ニューヨーク・短期大学時代)第33話

ユニオンスクエアの駅から徒歩数分のところにBITE14というレストランが在る。ハマスをふんだんに使ったサンドイッチ、バジルとベーコンたっぷりのパニーニ、チーズをふんだんに使ったギリシャサラダ、ピタパン・・・思い出しただけで食べたくなる。(僕はこのレストランはニューヨーク一番のサンドイッチレストランだと思っている。価格も味も、そして気取らない店の雰囲気も最高だ。)イスラエル人のアミというオーナーが経営するこの場所で毎週ピアノを弾いていた。多いときは週に3,4日ピアノを弾くこともあった。

このギグを手に入れる2,3か月前に藤谷さんというドラマーからメールがあった。「お久しぶりです。以前国分寺T'sのジャムセッションでお会いしました藤谷です。これからニューヨークにジャズを勉強しに行きます。分からないことがあったら色々と教えて下さい。」という内容だったと思う。

正直、藤谷さんの事は全く覚えていなかった。(←ひどい)だが、社交辞令で私は次のように返信したと覚えている。

「藤谷さん、ご無沙汰しております。はい、何か分からないことがあったらいつでも気軽に聞いて下さい。」

すると翌日、藤谷さんから返信があった。

「おーありがとうございます!早速なのですが、二見君は住む場所はどうやって探しましたか?」

私は、このメールの何かが私の琴線に触れたのを覚えている。その理由は未だにどう説明すれば良いか分からない。

思えばニューヨークに移り住んで、数か月の間、私の精神状態は酷いものだった。言葉は通じない、大学の事務局にたらいまわしにされ、入学の手続きに2日間かかる、クラス分け試験に落ちて底辺のESLのクラスに入れられる。母親と毎晩電話で「ESLに授業料払うお金なんてないわよ!」「なんだと、ESLを馬鹿にするな」の口論。2万円の携帯電話を買ったのに通じない、シャワーのお湯が出ない、病院から40万円の診療請求が来る、クラスメイトにいじめられる、実家から送ってもらった国際郵便物が紛失し一日かけて隣町のFedexに取りに行く、友達はいない、彼女なんて勿論いない。自分の悩みを相談する相手がいない。セックスしたい(←それは我慢しよう)思えば一カ月はオナ禁になったと思う。その位落ち込んでいた。

そんな精神状態の中、藤谷さんから「これからニューヨーク行きます!(●^o^●)よろしくねー♪」というメール。正直こっちは質問に答える余裕すらないのに、社交辞令で返したメールに「アパートはどうしたんすかー?」といった直球の返信に、自分の今の辛い気持ちを理解していないと頭に来たのかもしれない。勿論、藤谷さんに非はないのだが、私はこのメールをなんと無視したのである。三富さんにアパートの事を下見まで含めて全部やってもらったのに他人に対しては冷酷なゆうこ。(←浣腸していいよ)ごめんなさい藤谷さん。でもあの時の精神状態で、誰かを助けられるような余裕はありませんでした。

それから、2、3カ月たった時に、なんと藤谷さんからまたメールが来たのである。

「お久しぶりです!今ニューヨークに住んでいます!最近ユニオンスクエアのレストランで演奏しているんだけど、今週ピアニストが見つからなくて、良かったら二見君ピアノを弾いてくれませんか?ベースはルームメイトの韓国人のジョンが弾きます」

藤谷さんは私よりも後にニューヨークに来たのに、もうギグを定期的にやっているのか。私なんか短期大学の宿題に追われて音楽活動なんてろくにしていないのに。彼の行動力というか自分の不甲斐なさを感じた。

藤谷さんは、何も気にしていなかったようだ。私はギグの誘いで嬉しかった半面、何か後ろめたい気持ちがあった。それと当時の私は日本人を避けていた。今となっては海外で日本人に会うのに抵抗はないが、当時英語が話せず、アメリカ人の友達がいない中で、日本人とつるんでいるのは、アメリカ社会に馴染んでいない様で自分として許されなかった。自分は意識高い系の留学生だったので、日本人となるだけ距離を取りたかったのだ。

と言ってもこれはギグのお誘いだし、レストランで演奏するなんて面白そう。私はこのギグを引き受けた。しかしメールで話を進めていくと、レストランには楽器は一切なく全部持ち込みだということが分かった。(アメリカあるあるである)藤谷さんの住むアパートに、キーボード、ドラム、ベースがあるらしく、それを全部背負って運ぶので(←正気か!)ギグの開始2時間前に来てと言われた。私は引き受けなければ良かったと思いながら、当日クイーンズのアストリアのアパートに向かうのであった。

【続く】

写真:この時のメンバーは一番右が著者、真ん中が藤谷さん、そして左がJudeというアメリカ系韓国人ベーシストだった。ご覧のようにトリオで店の面積の3割が埋まる超狭いレストランだった。よくこんなところでもバンドに演奏させたいと思うものである。ニューヨーカーのライブミュージック好きの文化には恐れ入る。

ジャズピアニスト 二見勇気
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