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あなたの口は何のためについてるの?~「察しろ」という自分の都合を押し付けてくる便利な言葉~

「これくらい察して。」、「察して動いて」。
何度か聞いたり、言われたり、思ったりした言葉ではないだろうか。

私はこの言葉が嫌いだ。
他人の気持ちなんか正確にわかりっこないのに、他人の気持ちを「察して」かつそれに見合った行動をとらなければならない。
なんて押しつけがましい言葉なのだろう。

私は、前に働いていた職場の上司から、「先のことを察して動いてくれない?」と言われたことがある。
その時、その職場に入って1年目、9ヵ月が経過した時であった。
しかもメンバーの1人が退職してしまい、試行錯誤の中で仕事を覚えている最中のことでもあった。当然、先を見据えることすらできていない状況でその言葉である。
私は激怒した。
「上司は部下に的確に指示をするものである。医療の現場で察しろなんてあり得ない。察しろ、なんて無能な上司がいうことだ。」と。
まぁ本人の目の前では言えなかったけど。言われたときの言葉が衝撃すぎて。

そもそも「察する」の意味はなんだろう?

1 物事の事情などをおしはかってそれと知る。推察する。
2 他人の気持ちをおしはかって同情する。おもいやる。
3 深く調べる。

goo辞書

なるほど、「察しろ」という人は「自分の気持ちをおしはかってね。で、求めている行動をしてね。」という意味で使っている。気持ち悪い。
そしてそういう人のことを「察してちゃん」と言うらしい。

だが、もう少し若い頃は私もいわゆる「察してちゃん」であった。
上司や同僚に対応してもらいたいことがあってもはっきり言えなかったり、好きな人に「好き」の一つも言えず、連れていってもらったお店がおしゃれじゃなく自分好みではないと不機嫌になったりしていた。面倒な人である。

そんな私に、ある時、ある言葉を言ってくれた人がいた。
働いていた病院にいた老婦人の患者さんだ。
何かの折に彼氏はいないのかのような話だったかと思うが、「好きな人にも好きって言えないんで~」と言ったら、彼女は笑いながらこう言ったのだ。

あんたの口はなんのためにあるんだい。言いたい人がいるなら言えばいいんだ。言うのはただなんだから。
思ってるだけじゃ伝わらないよ。エスパーじゃないんだから。
自分の思いは伝えてなんぼさ。
私はもう「好き」なんて言える旦那はいないから羨ましいよ。

それを聞いて私ははっとしたのだ。
そうだ、人間はテレパシーが使えるわけではない。
実の親でさえ、口に出して言わなければ自分の本心は伝わらないのである。

そこから私はできるだけ自分が思っていることを人に伝えるようにした。
仕事を手伝ってほしいと思ったら同僚に「手伝って」や「助けてほしい」、好きな人には「好き」と。
するとどうだろう。助けてくれないと思っていた同僚は快く助けてくれた。
好きな人は、同じくらいの「好き」を返してくれた。
私が1人で言わないのに察してほしいと勝手に期待して、そして希望に答えてくれないといじけていただけなのである。

結婚した当初、一緒に生活するにあたり夫との約束を何個かしたが、その中にこれがある。
「思っていることは口に出して言うこと。察しろなんて思うな。」

結構うまくいっているのである。


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