新型肺炎とサイトカインストーム

今回の新型肺炎の流行初期、中国から診療案が発表された。

そのなかに「細胞因子暴風」すなわち「サイトカインストーム」に関係する記述があった。

七、重症、重体型の臨床上の危険指標
(一)成人
1 末梢循環血のリンパ細胞が減少してくる
2 末梢循環血のサイトカインIL-6,C反応性タンパクが同時に上昇してくる。
3 乳酸値が同時に上昇してくる。
4 肺内の病変が短期間に進行してくる。

私の訳文の中から抜粋。

重体病態の一例として紹介されている。

感染症が多数の国家をまたいで爆発的に増加することを「パンデミック」というが、名実ともに最悪のパンデミックは以下のスペイン風邪ではないだろうか。

記録にあるインフルエンザの死亡数では以下に及ぶものはないと思われる。

Newspapers were free to report the epidemic's effects in neutral Spain, such as the grave illness of King Alfonso XIII, and these stories created a false impression of Spain as especially hard hit. This gave rise to the name "Spanish" flu. Historical and epidemiological data are inadequate to identify with certainty the pandemic's geographic origin, with varying views as to its location.

スペイン風邪、と呼ばれているが、第一次大戦当時中立国であったスペインだけが比較的正確な報道を行ったためであって実際には全世界に莫大な被害をもたらしたインフルエンザである。

他国においては、戦争の士気に関わるとして、あまり正確な情報が出ていなかった。結果、「スペインで起こったインフルエンザ」という謝った認識が通常概念ともなった。

このインフルエンザの特徴は「若く免疫力の高い人間」に大きな被害をもたらしたことであり、その原因は当時はまだ知られていなかった「サイトカイン」が影響する「サイトカインストーム」ではないかと言われてい


別のサイトからは

The Spanish flu pandemic of 1918, the deadliest in history, infected an estimated 500 million people worldwide—about one-third of the planet’s population—and killed an estimated 20 million to 50 million victims,

この記事をそのまま訳すと

「実に地球人口の1/3、5億人が感染し、そのうち2000万人から5000万人が死亡したと推測されている。」となる。

別の資料から確認すると

第一次世界大戦中の 1918 年に始まったスペインインフルエンザのパンデミック(俗に「スペインかぜ」と呼ばれる)は、被害の大きさできわだっています。世界的な患者数、死亡者数についての推定は難しいのですが、患者数は世界人口の 25-30%(WHO)、あるいは、世界人口の 3 分の 1
(Frost WH,1920)、約5億人(Clark E.1942.)で、致死率(感染して病気になった場合に死亡する確率)は 2.5%以上(Marks G, Beatty WK, 1976; Rosenau MJ, Last JM, 1980.)、死亡者数は全世界で 4,000 万人(WHO)、5,000 万人(Crosby A, 1989; Patterson KD, Pyle GF, 1991; Johnson NPAS,
Mueller J, 2002.)、一説には1億人(Johnson NPAS, Mueller J, 2002.)ともいわれています。日本の内務省統計では日本で約 2300 万人の患者と約 38 万人の死亡者が出たと報告されていますが、
歴史人口学的手法を用いた死亡 45 万人(速水、2006.)という推計もあります。

国立感染症研究所 感染症情報センター2006.12 改訂版より引用


4000万人、場合によっては一億人の死亡を招いたこのスペイン風邪の死亡率は2.9%程度と推定されている。

ちなみに、このインフルエンザウイルスはこれほどの死亡者を出しても「弱毒性」だそうだ。

話をサイトカインストームに戻そう。

サイトカインストームの定義は実は存在しない。

しかし、いくつかのサイトから「サイトカインストーム」の説明が上がっている。

(実験医学より)

感染症や薬剤投与などの原因により,血中サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-αなど)の異常上昇が起こり,その作用が全身に及ぶ結果,好中球の活性化,血液凝固機構活性化,血管拡張などを介して,ショック・播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全にまで進行する.この状態をサイトカインストーム(cytokine storm)という.

病原体に対する免疫系の攻撃としては、主に好中球やマクロファージなどの自然免疫系の貪食細胞による貪食作用、キラーT細胞による細胞傷害性物質の放出による宿主細胞の破壊、B細胞が産生する抗体による病原体の不活化などがあります。このような免疫細胞の活性化や機能抑制には、サイトカインと総称される生理活性蛋白質が重要な役割を担っています。サイトカインには白血球が分泌し、免疫系の調節に機能するインターロイキン類、白血球の遊走を誘導するケモカイン類、ウイルスや細胞の増殖を抑制するインターフェロン類など、様々な種類があり、今も発見が続いています。サイトカインは免疫系のバランスの乱れなどによってその制御がうまくいかなくなると、サイトカインストームと呼ばれるサイトカインの過剰な産生状態を引き起こし、ひどい場合には致死的な状態に陥ります。サイトカインは本来の病原体から身を守る役割のほかに、様々な疾患に関与していることが明らかになってきています。

(科学技術振興機構 免疫系におけるサイトカインの役割より)

非常に大雑把に説明すると「免疫の暴走」だ。

誘因は様々だが免疫力の低下とは無関係の病態だ。

例えるのもなんだが、「ウイルス」という外敵の迎撃に、必要以上の激しい重火器を使った結果、体内が焼け野原になる、という概念でとらえてよいと思われる。

炎症性のサイトカインが異常放出された場合は非常に危険な状態となる。

スペイン風邪においては高齢者のみならず、若く、体力のある人間の死亡例が非常に多く報告されている。

現在、世界中で猛威をふるう新型肺炎 Covid -19は「コロナウイルス」という球形のウイルスだ。

その特徴として、インフルエンザなどとは異なり、二次的な感染ではなく、直接「肺炎」を引き起こす。


この肺炎の特徴的なレントゲン所見として、「すりガラス様」陰影が発表された。

上の報告は ランセット 権威のある医学雑誌と思ってほしい。

Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study

81 patients admitted to hospital between Dec 20, 2019, and Jan 23, 2020, were retrospectively enrolled. The cohort included 42 (52%) men and 39 (48%) women, and the mean age was 49·5 years (SD 11·0). The mean number of involved lung segments was 10·5 (SD 6·4) overall, 2·8 (3·3) in group 1, 11·1 (5·4) in group 2, 13·0 (5·7) in group 3, and 12·1 (5·9) in group 4. The predominant pattern of abnormality observed was bilateral (64 [79%] patients), peripheral (44 [54%]), ill-defined (66 [81%]), and ground-glass opacification (53 [65%]), mainly involving the right lower lobes (225 [27%] of 849 affected segments). In group 1 (n=15), the predominant pattern was unilateral (nine [60%]) and multifocal (eight [53%]) ground-glass opacities (14 [93%]). Lesions quickly evolved to bilateral (19 [90%]), diffuse (11 [52%]) ground-glass opacity predominance (17 [81%]) in group 2 (n=21). Thereafter, the prevalence of ground-glass opacities continued to decrease (17 [57%] of 30 patients in group 3, and five [33%] of 15 in group 4), and consolidation and mixed patterns became more frequent (12 [40%] in group 3, eight [53%] in group 4).

今回の肺炎で特徴的な陰影

ground-glass opacification (53 [65%]),

「すりガラス様陰影は65%の患者に見られた」

と報告されている。

そしてこう続く。

COVID-19 pneumonia manifests with chest CT imaging abnormalities, even in asymptomatic patients, with rapid evolution from focal unilateral to diffuse bilateral ground-glass opacities that progressed to or co-existed with consolidations within 1–3 weeks. Combining assessment of imaging features with clinical and laboratory findings could facilitate early diagnosis of COVID-19 pneumonia.

すりガラス陰影はcovid-19の特徴として発表されているが、決して、この疾患に限定されるものではない。通常は肺がんの所見として報告されることが多い。

今回の新型肺炎におけるサイトカインストームの報告は多岐に渡る。

Pub Medへの報告の一覧でこの通りだ。


サイトカインストーム単体での検索が出来ないほど、Covid-19 すなわち新型肺炎関係のサイトカインストームの報告が上がっている。

一つ紹介しよう。


要約(Abstract  )
Coronavirus disease 2019 (COVID-19), which began in Wuhan, China, in December 2019, has caused a large global pandemic and poses a serious threat to public health. More than 4 million cases of COVID-19, which is caused by the severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2), have been confirmed as of 11 May 2020. SARS-CoV-2 is a highly pathogenic and transmissible coronavirus that primarily spreads through respiratory droplets and close contact. A growing body of clinical data suggests that a cytokine storm is associated with COVID-19 severity and is also a crucial cause of death from COVID-19. In the absence of antivirals and vaccines for COVID-19, there is an urgent need to understand the cytokine storm in COVID-19. Here, we have reviewed the current understanding of the features of SARS-CoV-2 and the pathological features, pathophysiological mechanisms, and treatments of the cytokine storm induced by COVID-19. In addition, we suggest that the identification and treatment of the cytokine storm are important components for rescuing patients with severe COVID-19.

黒字の部分を訳してみよう。

成長期における臨床データにおいて、covid-19 が引き起こす、致死的なサイトカインストームは体内抗体の不在や、ワクチン接種を行っていないことに基づくとされる。
covid -19におけるサイトカインストームは緊急性を持って考慮するべきである。

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