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【障害者5000人が解雇や退職】ニュースに思うこと

昨日、朝Yahooニュースを見ると、A型事業所が全国で329ヶ所閉鎖され、障害者5000人が解雇や退職という記事が・・・。

今回、このような状況になった理由の一番の大きな要因は、障害福祉サービス報酬改定でした。令和6年度に障害者福祉サービスの就労系(福祉から労働に移行する目的)サービスが、大きく見直されることになったためです。

就労継続支援A型は障害福祉サービスの1つではあるものの、一般就労と同じく最低賃金額以上の給料を保障する必要がでてきます。また雇用契約を結んで働くので「労働者」であり、雇用契約を結んで働くので、労働基準法などの労働関係法規等の適用を受ける「労働者」として扱われることになります。

採算の合う事業ができていればいいのですが、B型事業所(月額の工賃が平均1万6千円程度)とあまり変わらない仕事内容をしているところも見られます。事業所の約半数ほどは実質的に赤字となっており、賃金に見合う収益が出せていない状況で課題となっていました。
また公費を当てにした設立が増え、杜撰な経営状態の事業所も増えていました。そこで、障害福祉サービスの改定でテコ入れがされてきたというわけです。

A型事業所の問題は、今回に始まったことではなく、実は過去にもいくつかありました。

「悪しきA型」という言葉が広がった2010年頃に福祉コンサルによって悪質なA型事業所を設立するモデルが全国に普及して問題とされたことがありました。
これは短時間雇用で簡単な作業を提供し、補助金の一部で障害者の最低賃金を払い、経費をできるだけ切り詰めるビジネス方法が提案され、事業所にとって仕事のできる障害者以外は解雇されるケースなどもありました。

また、就労継続支援A型事業所の大量解雇問題については、2017年に全国6ヶ所に事業所を構えていた福祉事業所が突然閉鎖され、154人の利用者がいっせいに解雇されたケースもありました。(詳細については、下記に記載しています。)

今回の問題は、当事者やそのご家族にとって「事業所から解雇される」「働く場所がなくなる」「A型からB型に変更され収入が減る」といった深刻な影響を受ける可能性があります。

ただし、今回の報酬改定で事業所の経営が急変したわけではなく、もともと事業運営に課題があったり、ビジネスとして成り立たなかった事業所が少なくなかったことも考えていく必要があります。

就労継続A型事業所は、障害福祉サービスでありながら雇用契約を結び、雇用助成金も受けられるため、ある程度の事業性が求められます。しかし、実際には単純作業や収益性の低い事業に依存しているところも多く、これでは中長期的に運営が難しいのは明らかなことでした。

障害者に関する議論は、立場や視点によって意見が大きく分かれることがあります。例えば、「障害者雇用代行ビジネス」は賛否両論あります。(最近は、批判的な意見が多いです。)このビジネスは、障害者を雇用することが難しい企業に対して、働く場所や人材紹介、サポートを提供するサービスですが、最近では「真の雇用ではない」という批判も増えています。

農園で育てた作物が福利厚生として配布されるケースでは、賃金に結びつかず「働く」という意味が薄れてしまうと指摘されています。また、「法定雇用率を満たしていても、雇用の質が不十分で、障害者の排除につながっているのではないか」といった声もあります。

一方で、障害者が企業で雇用される場合、最低賃金以上の給与が支払われますが、福祉事業所での工賃は全国平均で月約1万6千円程度です。親の高齢化や親なき後を心配する家族にとって、障害者が安定した職場で働けることは大きな安心材料です。

障害者雇用に関しては、企業、働く障害者やその家族、障害者雇用ビジネスの事業者、障害者団体など、それぞれの立場や利害関係が複雑に絡み合っています。

私は企業で障害者雇用に携わってきた実務研究者として、また現在は企業をサポートする立場として、企業視点で考えることが多いですが、このようなニュースをきっかけに「障害」や「障害者」に関心を持つ人が増えることはとても意義あることだと感じています。

また、大切なのはこれらについて考える際、さまざまな立場や視点があることを理解し、これを契機に今後の障害者を取り巻く雇用、教育、福祉をより良いものに変革していくことだと考えています。


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