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きゅうばあ少年〜小学校の給食配膳室で出会った少年の話〜

当時、彼は小学5年生。
小学校の給食配膳員だった私は、2年の任用期間を終え、3月の修了式には離任される先生方と一緒に見送られた。
その時、「なんでいなくなっちゃうの?」と私に声を掛けた彼の顔が忘れられない。

今は20歳になっている君。
どんな青年に成長したかな。
会いたいよ。

*****

給食の時間が始まって間もなく、廊下でゴーンゴーンと規則的な音がする。
その音はだんだんと、こちらに近づいて来る。

その音と共に現れたのが、きゅうばあ少年。
給食配膳員の私のことを"きゅうばあ"(給食のばあさん)と呼ぶ彼は、ある日、ゴーンゴーンと足で壁を蹴りながら歩いていた。顔を見ると、泣いている。数歩遅れて担任の男の先生。どうやら先生に怒られたようだ。

彼が行き着いた先が生徒玄関。そこでもまた、お説教されているようだった。
ほどなくして、彼が配膳室に現れた。
私に泣き顔を見られているのは分かっている。

👩「色々あるねぇ。給食食べないとお腹空くよ」

👨‍🦱「給食なんか食べない!…ねえ、何やってるの?」

👩「ん?これ?雑巾洗ってるの」

👨‍🦱「ふーん、バカだ。」(その口調はやはり元気なさげ)

👩「何がバカなのさ…んーもしかしたらバカかもしれない」

なんて会話をしているうちに、配膳室から出て行った。

翌日、片付けの時間に「きゅうばあ!」という声がするので振り返ると、彼がいた。ご飯箱の上に牛乳ケースやお玉のカゴを乗せた物を持って。

「おー!心配してたよー」
と私が言った言葉の端から、彼は持っていたゴミ袋をゴミ箱に投げつけた。

「投げないでちゃんと捨てたらもっとOK!」
と言うと、「うるせっ!」と言った。
「今、何て言った?」「うるせっ」
「それはダメです!」

お互い、本気で言い争っているのではないことは分かっている。うるせっ と言った顔は、甘えている表情だ。

クラスメイトが給食ワゴンを拭いて!と彼に言うと「ハァ~?」と大きな声。

私が「ハァ~?とか言わないの!」
と言いながら、
「手伝ってもらいたかったら"お願いね!"、やってもらったら"ありがとう "って言ってね」
まるで低学年に話し聞かせているようだ。

そうこうしているうちに、彼は、その方向を見ずに「ウチの担任が来た」 と私に囁いた。
先生は、ちゃんと真面目に片付けしているか彼を監視しているらしい。

昨日先生に怒られていたから、今日は学校休むんじゃないかと心配していたよ。
頑張れ~きゅうばあ少年。"きゅうばあ"が 力になってあげるよ!

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