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今日はブリッジ(歯)が入る!〜その時起きた2つの事件とは

[第一章]

今日は、先週型をとったブリッジがやっと入る。
私は予約時間であるAM10:30の5分前に歯科医院に到着した。

この先生は、義歯や噛み合わせを得意としていると記憶している。とにかく作業が丁寧。
口数少なく黙々と歯の工事を進める、まさに職人という言葉がピッタリの歯医者さんだ。

これまでの経験から、今日もかなりの時間をかけて噛み合わせを調整するはずだ。
ということは、それなりにこちらにも覚悟が必要となる。まぁ、前回のように2時間半もかからないとは思うが。

作業が始まって間もなく、1本の電話が入った。
「先生、12時前にコンバーターの修理に来るそうです。いいですよね?」
(機械が故障しちゃったのかな?)
歯科衛生士さん(=先生の奥さん)が、小声で先生に伝えに来た。それはつまり、その頃には私の治療は終わっているということを意味している。

着々と噛み合わせ作業は進められる。
新しくできたブリッジを歯茎にはめては取りだし、削る。それを何度も繰り返す。

ある程度の調整ができると、今度はカーボン紙のようなものをカチカチ噛み、色の付いた部分を削るのだ。

…と、このあたりで、私は身体にある異変を感じていた。これは気のせいだ、そんなはずはない。この歯科医院に通い始めて25年、たったの一度もこんな現象など起きたことはないのだ。

それは…紛れもない"尿意"だった。

なにも恥ずかしがらずに先生に言ってトイレに行かせてもらえば済む話なのだが、作業中の先生の手を止めさせてしまうのは気が引ける。
ましてや、診察室の壁にも"トイレは治療の前に済ませておいて下さい"との張り紙も貼ってある。
そう簡単にトイレに行くわけにはいかないのだ。

しかし、押し寄せる尿意の波は、さざなみから次第に大きなうねりを伴い、容赦なく私に押し寄せてくる。
これは、どこかのタイミングで行かせてもらわなければ大惨事になってしまう。

トイレに行くグッドタイミングとしてはブリッジを接着剤で付ける直前がふさわしいだろう。
くっ付けてしまったが最後、しばらくそのままジーッと待っていなければいけないのだから。

私は、ひたすらその時を待っていた。

…と、その時、
「あ、もう来ちゃった」
と、小さくつぶやく歯科衛生士さんの声が聞こえた。

なに?
コンバーターの修理の人が来ちゃったってこと?
私は、つむっていた目をカッと見開いた。
つまり、治療が始まってからすでに1時間半も経ったということね。

私の膀胱は、だんだんと限界に近づいてきた。
カーボンのカチカチもかなりの回数を重ね、次のうがいのあとに接着作業に入ると思われる。
よし!次のうがいがチャンスだ。

リクライニングシートが上がると、先生の
「はい、うがいしてー」の声。
うがいを終えた私は、すかさず先生に
「すみません、お手洗いに行きたいんですけど…
あ、くっ付ける直前でいいんです。それまでは"もちそう"なので」と、痩せ我慢発言をした。本当はギリギリなのに。

すると先生は、
「あ、我慢してた?まだ(接着剤で付けるまで)時間かかるから」と言い、私はやっと解放されたのだった。


[第二章]

無事大惨事は免れ、スッキリとした気分で再び診察台へ。

ブリッジの調整は大詰めを迎えている。
カーボンのカチカチは、より細かく綿密になっていった。

最初は
「軽ーくカチカチして」
次に
「カチカチしてー」
そして、最終的には2種類のカーボン紙(?)を使い分ける。

1枚目のカーボンをカチカチする時は
「(歯を)横にこすってー。前後にこすってー」
2枚目のカーボンをカチカチする時は
「カチカチしてー強くカチカチしてー」
と、なる。

1枚目と2枚目がワンセットになっていて、
そのカチカチセットが終わると
ブリッジを外して先生が削る。

何度も同じことが繰り返されているうちに、
心なしか先生が慌てているように感じることに気づいた。それは、機械の修理業者を待たせているから?
うん、多分そうに違いない。

25年ここの歯科医院に通っている身としては、私は患者のプロだと自負している(笑)
口の開け具合(歯によっては開け過ぎもダメ)、顔の傾け方、レントゲン紙を指で抑える角度など、事前に言われなくとも先生の要求に応えることができている(と自分では思っている😆)

このカチカチも、先生との息もピッタリだ。
「カチカチしてー、はい!」
この「はい」のあとに、私はカチカチを止め口を開ける。

ふと私は、これが何かにとても似ていることに気付いた。

それは「餅つき」だ。

臼と杵でつく餅。
この餅つきは、杵を下ろす人と餅に水を付ける人の息が合っていなければならない。
タイミングがズレると、水を付ける人の手を杵で打ってしまうからだ。

「横にこすってー、前後にこすってー、はい!」
(口を開ける)
「カチカチしてーはい!」
(口を開ける)

先生が杵で餅をつき、私が餅に水を付ける。
「カチカチー」
「はい!」
「カチカチー」
「はい!」
なんという小気味良いリズムなのだろう。

ところが、こともあろうか、そんな先生と私の息の合った餅つきのタイミングが、一度だけズレてしまったのだ。

私は、先生が「はい!」と言ったのにもかかわらず、カチカチを続けてしまったのだ。
「ガリッ」
と先生の指をかじる私と
「あっ」
という先生の声。
私としたことが、なんという失態!!
先生の焦りが私にも伝わってしまったのだろうか。

しかし、、、
今回の尿意やカチカチガリッは、私にとって初めてのこと。老化かな…。

修理業者を待たせているためか、私のブリッジは
今回仮止めで終わった。
来週でようやく完成だ。(たぶん)



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