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美術館に呼ばれて

美術館という空間

厳かで静かだと、なんだか秘密を共有しているみたいな感覚になる。
同じ山に登っていたら、仲間のように感じるみたいに。

同じ絵を見て、同じ空間にいて、全く知らない人たちが、今後も出会わない人たちが、ふとした瞬間に何かを共有している感覚になる。不思議な場所だと思う。

自分の好きなものまっすぐ見れる場所。
お気に入りのものを見つけられる場所。
そんな場所だから、私は好きなんだと思う。

出会いは偶然で突然

大学1年生。
入学した頃の緊張感は急速に薄らいで行き、仲が良いのかよくわからないグループがあちらこちらでできはじめ、何かにつけて行動をともにし始める。

サークルの先輩がいかに無茶をしているか、アルバイト先がいかにブラックか、ドライブに行った場所、マウントとも言えない何かが飛び交っている。少し恥ずかしさを覚えるようなその会話は、中身がないことを承知で盛り上がっていく。そうしないと、何かが剥がれ落ちていくかのように。そんな雰囲気がなんとなく億劫で、そうでなくても交流が苦手な私は、特にやることもない毎日が退屈で、時間を持て余していた。

4年間という膨大な時間が突如目の前に姿を現し、その余りある時間に圧倒されつつも、同時にまだ見えない何かを期待する。

かといって、何かに挑戦するわけでもなく、たまに見かける洗練された服装の同級生の「今日の服装」をなんとなく楽しみにしている。
そうして、大学周辺の町を散策する。これまで興味を持つことのなかった「美術館」という場所に、初めて足を踏み入れたのは、自然の成り行きだ。

有名な展示をしているらしい。学生証を見せると安くなるらしい。そして、私はまだ時間を持て余していた。

それからも学割という制度を不思議に思いながら、今後も通うことになる美術館との最初の出会いは、とても鳥肌が立ったことを覚えている。

ビギナーズラックというのとは少し違うかもしれないが、なんでも「初めて」というのはすごいのだ。

静寂が音を立てているような空間に、真剣に絵画と向き合う人達がいて、気に入ったものを心ゆくまで楽しんでいた。

その日の私は、ある絵の前で鳥肌が立ち、すげーすげーと心の中で呟きながら、秘密の共有をしているかのような空間をとても気に入った。

平日のお昼の美術館には本当に絵が好きな人達が来ているような気がした。

これからも1番好きな絵

少し時間を進めて、大学3年生。
イギリスに旅行に行った。そして、ロンドン・ナショナル・ギャラリーへ。

かつての私は、この時のことをこう振り返っている。

ロンドンのある美術館。
広い建物に、たくさんの有名な絵が展示されている。その中の1つの絵。

鳥肌が立って、目が離せなくて、立ち尽くして、眺めていた。私と絵の間をたくさんの人が通り過ぎる。

しばらくして、黒人の男の人に声をかけられました。
「この絵が好き?」と。
そうだと答えると、彼は僕もだと言いました。

それから暫く、2人で並んでその絵を見つめる。
満足して絵の前を離れようとするタイミングは殆ど同じで、彼と笑顔を交わして別れました。

名前もどこの国から来たのかも知らないその人と、確かにあの瞬間、何かを共有していたのだと思います。

あー。めっちゃ良くないですか?笑

絵画は何のために創られたのでしょう。
絵画は人を、社会を救えるのでしょうか?

時には、権威の命によって、時には、力の誇示のために、自己表現として、仕事として、社会への一太刀として、何かへの批判か、限界への挑戦か、

いずれにせよ、何かしらの想いを背負って創られたのだと思います。

そんな一見なんの意味もなさそうなものが、大して力もなさそうなものが、世界を、誰かの心を救う社会であったらいいのになと思います。

絵画のような美術も、教会や宮殿のような建築物も、美味しい料理も、そして、カタリ場も。

私もいつかきっと、見知らぬ誰かに
"Do you like this picture?" って言いたい。

そしたらきっと、忘れられない絵になるから。

心の赴くままに

更に時を進めて、今。
あの頃よりほんの少しだけ、あの有名な絵は誰が描いたものだとかわかるようになったりもした。

それでも、私は解説には目もくれず、その部屋で1番惹かれる絵に向かってまっすぐ進んでいくように、絵を見たい。時には来た道を戻ってみたり、時にはソファに腰掛けて、部屋全体を見渡したりしたい。

誰にも決められてないのに律儀に列を作って、誰かのペースに合わせながら一つ一つ順番に、そしてあの有名画家のあの絵画を寄ってたかって見るような日本人の美徳のような鑑賞はごめんだ。

私にとっての美術館は自分だけの宝物を静かに共有するような場所だから。

これからも自分の心が赴くままに。好きな絵に、そしてたくさんの物語に出会う人生を送ろう。

それでは、いつか世界のどこかの美術館で会いましょう。

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